2018.5.18

竹久夢二、百花繚乱。
初公開の自伝小説挿絵原画も含む500点超えの作品で、その全貌に迫る展覧会が開幕

大正ロマンを代表する画家・竹久夢二の、過去最大規模の展覧会「千代田区×東京ステーションギャラリー 夢二繚乱」が、東京ステーションギャラリーで2018年5月19日から7月1日まで開催される。千代田区と同館が共催し、初公開を含む約500点の作品で夢二の全貌を紹介する本展の見どころをお届けする。

展示風景より セノオ楽譜の表紙
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 1884年に岡山県に生まれた竹久夢二は、美術の専門教育を受けていないにもかかわらず、独学で才能を開花させた。21歳で新聞・雑誌などに投稿を続けるとたちまち人気を得て、25歳には初の画集を刊行。以後、とくに美人画で知られる人気画家となり、1934年に50歳で亡くなるまで勢力的に作品を発表し続けた。

 50年という生涯の中で、膨大な作品を遺した夢二。そんな夢二の創作の全貌に、500点を超える作品で迫る展覧会が東京ステーションギャラリーで2018年5月19日から開催される。

展示風景より

 これまで出版・印刷業が集積した全国有数の街として発展してきた千代田区の協力を得ている本展。千代田区九段南にあり、戦後の夢二ブームを牽引した出版社・龍星閣の創業者である澤田伊四郎が収集した1200点を超える膨大な夢二コレクションが千代田区に寄贈されたことを記念し、その精華を紹介するという内容だ。そのため、これまで公開されてこなかった貴重な初期の試作や、自伝小説の挿絵原画などが初めて披露される。

 本展は4章で構成されており、まず第1章「夢二のはじまり」では、青年期の作品を見ることができる。ここでは初公開となる画文集『揺籃』(ようらん)に注目したい。『揺籃』は1903年に制作された、外国文学の翻案や創作、数点の挿絵を含む手描きの冊子だ。これは上京して早稲田実業学校に進学した夢二が、在学中に制作したと思われる本作は、現在知られている肉筆作品としてもっとも若い頃の作品だという。夢二がマザーグースの翻訳を独自に行っていたことはこれまでも指摘されてきたが、ほかにもドイツ文学やフランス文学にも親しんでいたことを知ることができる貴重な作品だ。また、幼子を抱く母親など、夢二が生涯にわたって描き続けたモチーフがこの頃から描かれていたことがわかる。

展示風景より 竹久夢二『揺籃』 1903

 ほかにも本章では、洋画家・岡田三郎助の妻である八千代宛の書簡も展示。岡田夫妻と夢二は親しくしており、三郎助より「美術学校に行かずに、独学で個性を伸ばすこと」を勧められた。

展示風景より 竹久夢二 岡田八千代宛書簡 1920

 続く第2章「可愛いもの、美しいもの」では、夢二の代名詞ともいえる「夢二式美人」や、デザイナーとしての夢二の仕事を展示。夢二はデザイナーとして舞台美術などの仕事も行っているが、とくに主要な仕事としてはグラフィックデザインと服飾デザインのふたつに分けられる。

 夢二が描く、現代にも通じる華やかでかわいらしいデザインの数々。夢二はヨーロッパの美術動向も熱心に研究しており、抽象的な表現などを貪欲に吸収していた。夢二が描く絵はがきは当時の絵はがきブームのなかで人気を集めたほか、女性たちは「夢二式美人」に憧れ、夢二が描く着物の柄を求めたという。

展示風景より 夢二が手がけた絵はがき

 第3章「目で見る音楽」では、セノオ音楽出版社より発刊されたセノオ楽譜が目を引く。夢二は数多くの楽譜の表紙を手がけ、日本をはじめとする世界各国の楽曲のイメージを、画風を使い分けてたくみにデザインした。

展示風景より

 なかでも注目したいのは、「夢二式美人」が艶やかに描き出されている「宵待草」だ。これは夢二自身が作詞を手がけたもの。

展示風景より 中心が『宵待草』

 展覧会の最後を飾る第4章『出帆』では、その章タイトルのとおり、夢二の自伝小説である『出帆』の挿絵原画が、詳細な年表とともに展示されている。恋多き人生を送った夢二の、人間らしい一面を垣間見ることができると同時に、初公開となる貴重な挿絵原画や単行本をあわせて見ることができる。

展示風景より

 艶やかな肉筆画から華やかなデザイン画、装丁を手がけた本の実物、小説や絵本の挿絵など、夢二作品の魅力を存分に味わいながら、その生涯を追うことのできる展覧会。関連イベントも多数企画されているので、あわせて注目したい。