災害時など、避難所で生活する人々のプライバシーを守るために建築家・坂茂(ばん・しげる)が考案した、紙管でできたフレームに布を掛けて完成するシンプルなパーテーション「紙の間仕切りシステム(PPS)」。これをキャンバスに、ウクライナ難民の現状を伝える「『ペーパー・サンクチュアリ』- ウクライナ難民の現実と詩 - 坂 茂」が大分県立美術館1階のアトリウムで開幕した。会期は2月4日まで。
坂茂は1957年生まれ。建築家として坂茂建築設計の、人道活動家として1995年に設立された災害支援に特化したNPO法人「ボランタリー・アーキテクツ・ネットワーク(VAN)」の代表をそれぞれ務めている。世界各地での災害支援に数多く貢献したことから、プリツカー建築賞(2014)、マザー・テレサ社会正義賞(2017)、アストゥリアス皇太子賞平和部門(2022)を受賞。2015年に竣工した大分県立美術館も坂による設計だ。
本展は、2023年にイギリス・ロンドンのサマセット・ハウスで開催された展示の日本巡回となるもの(キュレーターはクレア・ファロー・スタジオ)。ウクライナ出身の詩人スヴェトラーナ・ラヴォーチキナ、ベルリンを拠点に活動する写真家ヴィンセント・ヘイグスらの作品を、戦争難民として自身もベルリンに身を寄せる作曲家ヴァレンチン シルヴェストロフの音楽とともに展示するものとなる。
坂によると、紙の間仕切りは15年ほど前から開発されていたが、前例がないという理由や防災協定の観点からなかなか役所に受け入れてもらえなかったという。しかし坂は「避難所においてもプライバシーは人権を守るためにも大切なものだ」と考えてきた。その後の2011年の東日本大震災や2016年の熊本地震ではこのPPSを避難所に設置、近年のコロナ禍においては簡易なワクチン接種所になるなど、飛沫感染防止の役割も担ってきた。
坂は本展について次のように語る。「ウクライナで避難できているのは女性と子供のみ。気丈に振る舞っていた母親が、PPSに入った途端泣き出した光景も現地で目の当たりにしたこともある。ウクライナの状況は日々悪化しているが、ガザの問題や国内の災害など数多くの問題であふれかえっており、人々の記憶から消えつつもある。一人ひとりができることは異なる。本展を通じてこの惨状を認識することも、支援につながるだろう」。
なお、VANと坂茂建築設計は、1月1日に発生した令和6年能登半島地震の被災地支援プロジェクトも始動。1月9日には金沢市の体育館に150ユニットのPPSと段ボールベッドを設営。今後被害の大きい珠洲市にも赴く予定だという。