世界市場においてアート作品と同様に高く評価されている日本の美術工芸品。その国際的な価値をさらに高めることを目指す「日本の美術工芸を世界へ実行委員会」が、東京・天王洲で展覧会「ひかりの底」をスタートさせた。
本展のキュレーションを担うのは、日本文化への造詣が深い橋本麻里(小田原文化財団 甘橘山美術館 開館準備室室長)。会場は多くのギャラリーが集積する天王洲のTERRADA ART COMPLEXⅡに位置するBONDED GALLERYだ。
橋本は現在の工芸について、「その立ち位置は変化し続けており、美術と工芸の違いなども定義しにくい」としつつ、その変化の最先端にいながらも、京都を中心とした作家をラインナップしたという。「日本といえば『陰翳礼讃』と言われるが、その『影』をつくるためには光が必要。日本は光のバリエーションも豊かであり、多彩な素材や技法によってそれを提示したい」と話す。
参加作家は、井本真紀(ガラス)、江里朋子(截金)、山村慎哉(漆工)、橋本知成(陶芸)、誉田屋源兵衛(染織)、かみ添(唐紙)、清水卯一(陶芸、京都府蔵 [京都文化博物館管理] )。
例えば「かみ添」は、唐紙老舗「唐長」で修行したのち、独立した新世代の唐紙師・嘉戸浩による屋号。現代美術作家や建築家、音楽家らとも協働するなど、幅広い活躍を見せており、幾重にも重なる雲母の光と紙の白、胡粉の白は独特の柔らかな光を放っている。
また橋本知成は今年、和歌山県立近代美術館で開催された個展「なつやすみの美術館 13 feat. 橋本知成」でも大きな注目を集めた作家だ。陶土を素材に使用しながらも、表面に金属や鉱物のような光を湛えた橋本の作品群。水面に揺蕩う光のように床置きされた作品は、本展コンセプトを象徴するかのようだ。
山村慎哉の漆芸にも注目したい。金沢美術工芸大学で教鞭を執り、後進の指導にも当たる山村。「螺鈿」によって生み出された作品群は、非常に高い技術力を伝えるとともに、伝統工芸から解き放たれた軽やかな表現力も伝えている。
美術と工芸の境界線があいまいになるなか、それぞれ独自の「光」を湛えた作品を生み出す作家たち。本展は来年1月にはインバウンドの玄関口でもある国内空港での展示も予定されている。今後もこの展覧会はさらなるバージョンアップを見せてくれるだろう。