マリー・ローランサン。アーティゾン美術館で見る、20世紀を駆け抜けたひとりの画家の変遷
東京・京橋のアーティゾン美術館で「マリー・ローランサン ―時代をうつす眼」展が開幕した。日本でも人気が高いマリー・ローランサンが、女性画家が生きづらかった時代を生き抜き、評価を確立した姿を辿ろうとするものだ。会期は2024年3月3日まで。
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今年はじめ、Bunkamura ザ・ミュージアムで開催された「マリー・ローランサンとモード」が記憶に新しいマリー・ローランサン(1883〜1956)。その回顧展が、東京・京橋のアーティゾン美術館で始まった。会期は2024年3月3日まで。担当学芸員は賀川恭子と内海潤也。
マリー・ローランサンはパリのアカデミー・アンベールで学び、キュビスムの画家としてそのキャリアをスタートさせた。1914年にドイツ人男爵と結婚しドイツ国籍となったため、第一次世界大戦がはじまるとフランス国外への亡命を余儀なくされた。その後、1920年に離婚を決意しフランスに帰国。翌21 年には個展を開催し成功を収めた。ローランサンは第二次世界大戦勃発後もほとんどパリに暮らし、72歳で亡くなるまで制作を続けた。
ローランサンは自分に影響を与えた存在として、アンリ・マティスやパブロ・ピカソ、ジョルジュ・ブラックの名前を挙げているものの、そうした画家たちの様式を模倣することなく、パステルカラーの独自の画風を生み出した。
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本展では、石橋財団コレクションや国内外の美術館からローランサンの作品約40点と挿絵本等の資料約25点に加えて、ローランサンと同時代に活躍した画家たちの作品約25点をあわせた合計約90点が並ぶ。ローランサンの画業を複数のテーマから紹介し、関連する他の画家たちの作品と比較しつつ、その魅力に迫ろうというものだ。
担当学芸員の賀川は本展の開催に際し、「ピンク色ではないローランサンを見せたい。女性画家が生きづらかった時代を生き抜いて、評価を確立したローランサンの姿を見せられたら」と語る。
会場は「序章:マリー・ローランサンと出会う」「第1章:マリー・ローランサンとキュビスム」「第2章:マリー・ローランサンと文学」「第3章:マリー・ローランサンと人物画」「第4章:マリー・ローランサンと舞台芸術」「第5章:マリー・ローランサンと静物画」「終章:マリー・ローランサンと芸術」で構成。
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展示はローランサンの自画像群から始まるが、ここではその年代の幅に注目したい。画塾でアカデミックな絵画を学んだ1990年代初頭の作品と、1920年代の作品とでは表現はまったく異なっている。ここを見るだけでも、ローランサンが時代を経て独自の画風を確立した過程がよくわかる構成となっている。
続く1章は、ローランサンがピカソを描いた作品から始まる。1909年頃に始まったキュビスムの画家として活躍を見せたローランサン。このセクションがあることで、ローランサンがパステル調の作品を描く前に、前衛的な位置にいたということがしっかりと示される。
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賀川によると、ローランサンのキュビスム時代の絵画は、「人体は大きく解体されず、柔らかい曲線で描かれている。いっぽう背景はキュビスムの画家たちの風景画のように描かれているのが特徴」だという。なかでもストックホルム近代美術館から来日したキュビスム期の代表作《若い女たち》は、そのエッセンスが凝縮されているものだ。
なおこのセクションでは、ジョルジュ・ブラックやピカソなど、ほかのキュビスム作家たちの作品も同時に展覧することで、ローランサンの特徴が際立つ構成となっている。
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ローランサンは絵画のみならず詩も書き、詩人たちとも交流を持っていた。また80冊以上の本の挿絵も手がけている。そうした文学との関わりも、『スペイン便り』の11枚の挿絵や、『椿姫』の12枚の挿絵などから見ることができる。とくに後者はその水彩画が一堂に並んでおり、淡い色彩の美しさに目を凝らしたい。
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ローランサンと言えば人物画をイメージする人も多いだろう。上述のキュビスム時代でも人物が解体されなかったことからわかるように、ローランサンは人物画を得意としていたという。第3章はその人物画にフォーカスしたセクションだ。同じような人物画でも、1920年代と30年代の作品を見比べると色彩の変化に気づくだろう。色は落ち着くが画面は華やかになる、という変化に注目してほしい。
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なお、《二人の少女》は制作のわずか2年後、1925年に日本で展示された来歴を持つ作品。日本におけるローランサンの受容の歴史の一端が垣間見える。
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ローランサンはバレエリュスのために衣装や背景画を制作していた。このバレエでの仕事の経験が、《田園の祭典》のような新たな作品につながることもあったという。
また、本展では生涯を通じて描いていたという静物画や、ローランサンが絵付した椅子など、人物画以外の作例も並ぶ。
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展覧会はローランサンの群像表現で終わる。1920年代、30年代、そして晩年の作品3点を並べることで、冒頭のように作風の変化が端的に示されている。
本展はコンパクトな構成ながら、ステレオタイプのマリー・ローランサンではない、多面性を示したものになっていると言えるだろう。
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