東京・六本木の21_21 DESIGN SIGHTで企画展「もじ イメージ Graphic 展」がスタート。近代のグラフィックデザインを振り返るとともに、主にDTP(Desktop Publishing)が主流となった1990年代以降のデザインを紐解いていくものとなっている。展覧会ディレクターは、室賀清徳(グラフィック社 編集者)、後藤哲也(デザイナー・キュレーター・エディター)、加藤賢策(グラフィックデザイナー・アートディレクター、株式会社ラボラトリーズ代表)。
雑誌『アイデア』の編集長を長く務めてきた室賀は、昨今のグラフィックデザイン情勢について「この20年間グラフィックデザインにおけるトレンドや、グローバル化していく様子を見てきた。ユニバーサルの視点でポジティブにとらえることもできるいっぽうで均質化が進み、独自性が失われてるようにも感じる」と語る。そのような現状を踏まえたうえで「展覧会タイトルからもわかるよう、日本にはひらがな、カタカナ、漢字、アルファベットといった様々な文字が組み合わさった独自の文字文化があるとともに、絵と文字が非常に近い存在であることも固有の面白さだ。そういった視点をベースに、いままであまりまとめて紹介されてこなかった90年代以降のグラフィックデザインを通じて紹介したい」と本展の開催意図についても語った。
会場は大きくふたつのエリアに分かれている。ギャラリー1では、日本語の書記体系の成り立ちを紹介しながら、それらがいかにデザインされてきたのかを、杉浦康平や亀倉雄策といった戦後のグラフィックデザイナーの仕事(60〜80年代)を通じて俯瞰できるような展示となっている。
ギャラリー2では、90年代以降に活躍する国内外54組のグラフィックデザイナーやアーティストの作品を13セクションに分けて展示している。いくつかピックアップして紹介したい。
DTPの誕生は、それまで写植を用いて制作されていたグラフィックデザインの分野に大きな変化をもたらしたことは言うまでもない。「テクノロジーとポエジー」では、当時の最新デジタルテクノロジーを積極的に用いてアプローチを試みたデザイナーによる作品を展示。いっぽうの「造形と感性」では、そういったシステムに抗うように描かれたグラフィック表現の事例を対比するように紹介している。
日本発祥として知られる「Emoji」に代表されるように、国内において言葉と図像は非常に近しい存在だ。「言葉とイラストレーション」ではフリーイラスト素材「いらすとや」など現代における事例を取り上げられており、日本には独自のコミュニケーション文化があることを客観的に知ることができる。
漫画というメディアが発展してきた日本において「キャラクターと文字」は切り離せない関係性だ。ここでは、マンガ装丁のパイオニア的存在である祖父江慎をはじめ、様々なマンガの表紙を見ることができる。デザイナーによって個性あふれるブックデザインや、こだわりの印刷手法についても見逃せないポイントだ。
地域の文化や伝統を現代の視点で汲み取り、再解釈するような事例も「ヴァナキュラーとリージョナル」で紹介されている。徹底したリサーチをもとに表象化されるデザインは、鑑賞者が古来の文化を理解するためのきっかけや親しみやすさを与えてくれるだろう。
近年SNSでもよく見られる文字の創作(作字)は、デジタルシステムのなかでは生み出せないような躍動感が魅力のひとつと言える。「文字と身体」では、三重野龍や佐々木俊らによる表情豊かなタイポグラフィやイメージ、そして大原大次郎による緻密さとダイナミックさが一体となった大型作品も展示されているため、注目したい。
SNSやウェブサイトなど様々な場所でデザイン事例にアクセスできる現代の環境には、デザインにおけるグローバル化と均質化があると言える。異なる文化間で何かを伝達する際は、この両側面の塩梅が重要であり、デザイナーの腕の見せ所でもあるだろう。ここでは国際芸術祭のキービジュアルなどの事例が紹介されている。
グラフィックデザインの役割のひとつとして、生活者の目を引き、対象物への関心を促すことが挙げられるだろう。「パブリックとパーソナル」では、近年SNSでも注目を集めた「投票ポスタープロジェクト」が紹介されている。選挙に行ったことがない若者や関心の薄い層に対してのアプローチとして、非常に効果的なプロジェクトであったと言える。
本展では、90年代以降のグラフィックデザインを通覧することで、その多様な役割知ることができるとともに、インターネット時代のグラフィックの在り方について俯瞰できるものだ。華やかで見るものをワクワクさせるこれらにはどのような意図やリサーチが込められているのか、視点を行ったり来たりさせながら楽しんでみてほしい。