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草間彌生の色彩はいかに多様なのか。草間彌生美術館で見るその変遷

東京・新宿区の草間彌生美術館で「幻の色」が開幕。本展は、草間彌生の色彩表現の変遷に迫る展覧会となっている。会期は2024年3月24日まで。

文・撮影=橋爪勇介(ウェブ版「美術手帖」編集長)

展示風景より © YAYOI KUSAMA

 草間彌生の作品における大きな魅力のひとつ。それは独特の「色彩」だろう。《南瓜》に代表されるような鮮やかな黄や赤の組み合わせがその典型として思い浮かぶが、じつは草間の色彩表現は画業において大きく変遷を続けてきた。それをたどろうとするのが、草間彌生美術館で開幕した「幻の色」(2024年3月24日まで)だ。

 本展では、初期から現在に至るまでの代表的なシリーズを一堂に展覧することで、その画業における特徴的な色彩表現を通覧することが可能となっている。

 エントランスには、一気に鑑賞者を引き込むような、蛍光ピンクの立体と絵画が展示。多数の箱が円柱形に積み重なる《塔》は、ソフト・スカルプチュアが配置され、黒い水玉で覆われている。その背後にある《魂を燃やす閃光(A.B.Q)》にも同じく黒い水玉が描かれているが、それらには精子のような「尾っぽ」が付いており、画面全体に躍動感を生み出している。ともに80年代以降の作品であり、目も眩むような色彩が作品に生命力を与えていると言えるだろう。

展示風景より、手前から《塔》(1998)、《魂を燃やす閃光(A.B.Q)》(1988) © YAYOI KUSAMA

 2階では初期から90年代の作品が概観できる。この部屋でもっとも古い作品である《残夢》は1949年のもの。シュルレアリスムを思わせる画面は暗みを持つ赤と青で覆われており、強いコントラストを放つ。並ぶ50年代のドローイングからも、色彩の対比に対する草間の意識が見てとれるだろう。

展示風景より、左が《残夢》(1949) © YAYOI KUSAMA

 いっぽうで、57年に渡米して以降の作品である《無限の網(1)》は草間が当時探究を始めた「自己消滅」の効果を実現させるために、禁欲的とも言えるモノクロームで描かれている。

展示風景より、手前から《希死》(1975-76)、《無限の網(1)》(1958) © YAYOI KUSAMA

 アメリカから帰国した後の70年代になると、草間は自室で制作できるコラージュや水彩のドローイングを多数手がけるようになった。闇夜に浮かぶ発行体のような色彩表現を、世界初公開となる作品群で堪能してほしい。

 またこの部屋では、同じく世界初公開となる「無限の網」シリーズの17点を展示。草間がよく用いる赤と白、黒と黄などの組み合わせはもちろんだが、青地に金など、様々な組み合わせのバリエーションが確認できる。

展示風景より、70年代の作品群 © YAYOI KUSAMA
展示風景より、「無限の網」シリーズ、世界初公開の90年代のアクリル絵画群 © YAYOI KUSAMA

 草間が2009年から21年にかけて800点以上を描いた連作「わが永遠の魂」、そして最新の絵画シリーズである「毎日愛について祈っている」では、さらに発展した色彩のバリエーションを見ることができる。とくに、「毎日愛について祈っている」の世界初公開作品に着目したい。

 これらの作品には白が効果的に用いられているほか、これまでは地色と描画色の2色表現が主だったネットペインティングや水玉において、さらに1色が加えられている。また、マーカーペンも多用されており、横顔や目など具象的なモチーフ、メッセージが描き込まれている点も、このシリーズの特徴だという。

展示風景より、「毎日愛について祈っている」シリーズの世界初公開となった作品群 © YAYOI KUSAMA

 草間の内面世界の明暗を映すかのように、目まぐるしく変幻する多様な色彩表現。それらは一概に年代によって区切ることはできないものの、本展ではおおよその流れを把握することができる。草間彌生美術館で、無限とも思える草間彌生の色彩の世界に飛びこんでほしい。

編集部

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