東京・日本橋の三井記念美術館で、特別展「超絶技巧、未来へ! 明治工芸とそのDNA」が開幕した。会期は11月26日まで。
本展は、三井記念美術館を皮切りに2014年から15年にかけて全国を巡回した「超絶技巧!明治工芸の粋」展と、17年から19年に全国巡回した「驚異の超絶技巧! 明治工芸から現代アートへ」展に続く「超絶技巧」シリーズの第3弾となる。
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本展の監修を務めた明治学院大学教授で美術史家の山下裕二は、本展について次のように語った。「第3弾となる今回は、現代作家を大幅に増やし17名が参加することとなった。明治の超絶技巧がいかに現代の作家に受け継がれているのかを体感できる展覧会になっているはずだ」。
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エントランスに展示されている彫金のカラスは、金工作家の本郷真也による《Visible 01 境界》(2021)だ。彫金による羽毛の重なりの表現に圧倒されるが、表面のみならず通常は見ることができない内部の骨格までがつくりこまれているというから驚きだ。会場ではCTスキャンによる映像が上映されており、つくりこまれた内部の様相を知ることができる。胃袋の中にはカラスが飲み込んだキャンディの袋まで再現されており、人間社会と動物の関わりをについての問いも内包されているという。
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本展出品者のなかでも最年少となる福田亨は1994年生まれ。福田は着色をしないことにこだわった木彫作家で、例えば吸水するアゲハチョウをモチーフとした《吸水》(2022)の、鮮やかな色調の羽根も素材の異なる木材を組み合わせて表現されており、水滴さえも磨き込んだ木でつくられているというから驚きだ。
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「サイバー螺鈿」と呼ばれる、算用数字などで現代的な文様を施す螺鈿作品で知られる池田晃将。金沢21世紀美術館のデザインギャラリーで個展「虚影蜃光」が9月18日まで開催されており、注目が集まっている。
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稲崎栄利子の《Euophoria》(2023)は、布のような素材に見えるが、じつは極小の細かい陶のリングを組み合わせてつくられた作品だ。陶という素材の可能性が広がっていく様を体感できる。
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金属ではなく木彫による自在置物で生命力を感じさせる人体や昆虫、草花をつくりあげる大竹亮峯。花器に水を注ぐとゆっくりと花弁が開くという仕掛けを持つ《月光》(2020)は、動かずとも圧巻の迫力を感じさせてくれる。
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前原冬樹は1本の角材を削り、成型して油絵具で着色する木彫作家。そのモチーフとなるのは、実際に打ち捨てられていたものだ。それらを実際に手に入れて、そこにあった長い時間に思いを馳せながら制作をするという。
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金工作家の長谷川清吉は、家業として茶道具をつくる家に生まれたが、家業を手伝う傍ら、使い捨てられる爪楊枝や梱包材、包装などを彫金で制作。吉田泰一郎は、銅を基本にリン青銅、銀メッキ、七宝を駆使した巨大な犬《夜霧の犬》(2020)を制作している。
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一木造りでサクランボやイチジク、タケノコといった複雑な自然物を制作する岩崎努の作品は、安藤緑山の精巧な象牙彫刻と並べて展示。明治工芸の思想が現代の作家に受け継がれていることを教えてくれる。
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ケント紙によるペーパークラフトで細密な工業製品を制作する小坂学。海上では平面から立体を生み出すための設計図とともに楽しみたい。また、石川・輪島の彦十蒔絵を率いる若宮隆志は、漆によって金属の経年変化など、多彩な素材感を描き出した。
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松本涼の極薄を極めた木彫による菊は茶室のなかに展示。盛田亜弥は毛細血管に植物と人間の形態の類似を見出し、その組織を意識した切り絵を制作してきた。一針ずつ縫うことでなめらかな立体をつくり出す蝸牛あやの作品は、見る角度によって様々な奥行きが発生している。
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明治の名工、白山松哉の作品と並べられるのが樋渡賢の作品だ。その羽根蒔絵の技術は、当時の技術にも迫るものがあるという。水墨画の山口英紀は伝統的な水墨画の技術を身に着けたうえで、スーパーリアリズムにも似た新たな水墨の境地を切り開いている。
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そして昨年、惜しまれながら世を去った青木美歌のガラス作品も展示されている。青木がガラスという素材を通してとらえようとした生命のあり方は、有機的でいまにも結合し増殖していきそうなガラスを通して見るものに訴えてくる。
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現代作家以外にも、会場では七宝、金工、漆工、木彫、陶磁、刺繍絵画などの明治工芸57点も展示。脈々と受け継がれ、たしかな思想をまとって洗練されてきたこの国の超絶技巧を一堂で見ることができる展覧会となっている。
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