現代日本のデザインから読み解くその文化と時代性。「Japanese Design Today 100」を海外巡回前にチェック
国際交流基金が主催する海外巡回展「Japanese Design Today 100(現代日本デザイン100選)」が東京・六本木の東京ミッドタウン・デザインハブで開幕した。本展はこの開催を皮切りに、今秋から世界各地を巡回する。
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国際交流基金(JF)が主催する海外巡回展「Japanese Design Today 100(現代日本デザイン100選)」が東京・六本木の東京ミッドタウン・デザインハブで開幕した。会期は5月28日まで。
本展は、日用品や嗜好品、伝統的な手仕事、さらには最先端の技術を取り入れた製品などのデザインのなかから、おもに2000年以降につくられたものを中心に約100点を展示。日々生活を支えるそれらからは「日本のデザインの特徴」や「日本の文化の現況」「当時の価値観」を読み解くことができる。
会場では約100点のデザインが、「Origins(原点)」「Furniture(家具)」「Electronics(電子機器)」「Tableware and Cookware(食器・調理器具)」「Clothing and Accessories(衣類・アクセサリー)」「Stationary(文具)」「Daily Life(日用品)」「Health and Medical(健康・医療)」「Safety and Disaster Supplies(安全・防災用品)」「Mobility(乗り物)」「Communication(コミュニケーション)」「Synthesis(総合)」の11セクションに分類されている。
まず会場で1番最初に目にするのは「Origins」のセクションだ。これらは現代にも通ずる様々なデザインの原点、そして日本文化をかたちづくったともいえる製品が並んでいる。ソニーのウォークマンや任天堂のゲームボーイは誰しもが知っている製品であり、我々の生活に広く浸透しているものだといえる。
また、1957年から始まった国内唯一のデザイン表彰制度「グッドデザイン賞」も日本におけるデザインの隆盛を支えてきたという点で、国内デザインの原点ともいえるものだろう。
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「Furniture」では、プロダクトデザイナー・深澤直人による「HIROSHIMA アームチェア(板座)」(2008)が展示。シンプルでありながら、背もたれからアームにかけてのなめらかなカーブへのこだわりが見て取れる。その細かな配慮が全体の佇まいをより一層美しく見せてくれている。セクションは異なるが、この製品もデザインの原点といえるものだ。
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海外から見た日本の印象のひとつに「トイレの清潔さ」が挙げられるのは周知の事実だろう。外国に住む人々の反応を聞いて、改めてその価値に気づかされるというケースも多い。会場には実寸大の「ネオレスト NX」(2022)の模型が設置されているが、「展示」されているとその形状の美しさを実感する。
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「Daily Life」のセクションで見ることができるのは、元々ある製品が時代やニーズの変化にあわせてさらなる進化を遂げているといった事例の数々だ。ここで紹介する「ポケットソープ」(2021)や「紙カミソリ®」(2021)を見るに、人の移動が流動的になったことや個人主義が加速したこと、そしてサステナブルの視点が強まったことなど、現代社会の価値観が製品を通じて想像することができる。
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今回とくに興味深く感じたのは、「Safety and Disaster Supplies(安全・防災用品)」セクションだ。2019年頃から始まったパンデミックで我々の生活には大きな変化が起こったことは記憶に新しい。そんな社会情勢が反映されたデザインも本展では見ることができる。医療の現場ですぐに着脱ができるプラスチックガウンや会議室や飲食店でよく見るパーテーション、そして街中に突如現れた「水循環型手洗いスタンド『WOSH』」(2020)も、たしかに現在の社会情勢を反映したデザインであると改めて納得する。
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また自然災害の多い日本では、災害に対処するためのデザインもつねに課題とされている。なかでも建築家・坂茂による「PPS4 避難所用・紙の間仕切りシステム」(2011)の登場は、避難所におけるプライバシーの確保に大きく貢献してきたもので、国内外で活用されている。柱も紙でできているため軽量で持ち運びがしやすく、誰でも簡単に組立・解体ができる点も、非常時においては重要なポイントだ。
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いまや世界中で目にする「QRコード」(1994)がじつは日本で開発されていたことをご存知だろうか。大量の情報を二次元のバーコードで読み取ることができるシステムは、言語を介さず、誰もがアクセスしやすい。また、どこにでも印刷・貼り付けることができるため壊れないというメリットもある。日本発の「Communication」システムとしても画期的なデザインだ。
ほかにも「Communication」の分野として、「日本語の書体デザイン」は我々の生活を気づかぬうちに豊かにしてくれている。そもそも日本には漢字、ひらがな、カタカナの3種類(+アルファベット)を使用する独特な言語文化がある。そのような文化圏で様々な書体デザイン、そしてそれを誰もが活用することができる「書体ライブラリ」があることは、我々の表現の豊かさにもつながっているといえる。
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会場の最奥にあり、現代における新たな課題とその解決を促すような製品が並ぶ「Synthesis」セクションからは、「エンタテインメントロボット“aibo”(アイボ)『ERS-1000』」(2018)と「Rami: AM製陸上競技用義足」(2016)が紹介される。aiboはユーザーとのコミュニケーションを通じて成長していく犬型AIロボットだ。aiboは「人に寄り添う」ことに長けた性質があり、この能力は人の感情を穏やかに、豊かにしてくれるものなのだという。「人から愛されるロボット」は我々の生活や未来にどのような影響を与えてくれるのだろうか。
東京大学生産技術研究所山中俊治研究室によって開発された陸上競技用の義足は、AM技術(3Dプリンティング)を用いて開発された、オーダーメイドの競技用義足だ。複雑な構造の成形や軽量化、強度の担保、そして何より美しいデザインが可能となり、それまで無機質であった義足に新たな可能性をもたらした製品だといえる。
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なお、本展の会場グラフィックはデザイナー・佐藤卓が主宰を務めるTSDOが担当。一見「分解された梅干しおにぎり」だが、その形状は四角、三角、丸、と非常にプリミティブなかたちで構成されていることがわかる。配色も日本を連想させるもので、もしかするとおにぎりは日本を端的に表すデザインのかたちなのかもしれない、と思わせる。そのグラフィックに対応するようにシンプルかつ巡回がしやすい会場構成・什器が設計されていた点も含め、会場全体がひとつの「日本のデザイン」として成立していたように感じた(会場構成はトラフ建築設計事務所、施工はクリキンディ)。
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現在、同じくミッドタウン内にある21_21 DESIGN SIGHTでは「The Original」展も開催中。「デザインの原点」として選ばれた国内外の製品が並んでおり、本展とあわせて鑑賞することで、よりデザインやそれらが生まれた背景と、現代にどのような影響を与えているのか、理解が深まることだろう。