山中俊治が語る、「天才じゃない自分」

デザインエンジニアであり東京大学で教鞭を執る山中俊治が2022年度いっぱいで退職する。これに伴い、最終講義に代わり行われた「最終展示」の会場で山中にインタビュー。元教え子でアシスタントでもあったデザインライター・角尾舞が、山中の思想に切り込んだ。

聞き手=角尾舞

山中俊治 撮影=中島良平

つねに自信がない自分

──大反響だった「未来の原画」展が終了しましたが、いまのお気持ちは?

 研究活動の集大成として、これで区切りをつけようという気持ちがありました。もちろんいくつかのプロジェクトは終わらないし、今後もサイエンスとデザインにダイレクトに関わっていく気持ちは変わらない。ただ、「研究室」という場で人を育てながらものをつくることには一区切りつけます。とても楽しかったです。

「未来の原画」展展示風景より Photo by Shintaro Ono

──先生は90年代から人を育てる意思があるデザイナーでしたよね。

 よくそう言われるけど、ご存知のようにだいぶ自分勝手ですよ(笑)。僕自身のクリエーションについて学んでほしいという気持ちはありました。でも教育者は教育法を定めていくことが多いけれど、僕はそこにはあまり注意を払っていない。惜しみなく教えてはきたが、教育法を確立しようとはしていなかった

──教育の現場で「成功したな」と思う方法はありましたか?

 僕は若いとき、天才と言われる人を目の当たりにして「自分は天才じゃない」と思ったんです。そういう人たちの本質には、自分自身を信じる部分や当たり前のように新しいことを始める姿勢があります。そこから「自分を信じることが大事なんだ」と気づきました。だからこそ、学生たちに言うのは、関心のあることとか、気になってしょうがないこととか、理由はわからないが惹かれるもの、ワクワクすること、ほのかに触れた感触を大事にし、「自分が天才だからそこに気がついた」と思うようにしろと言っています。その感覚がとても大事なことなんです。

山中俊治 撮影=中島良平

──先生が思う天才とはどなたですか?

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