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跳躍する/しようとするつくり手たちによる未来との対話、そして試行錯誤。人間こそがなしうるものとは何か

現代社会において「人間こそがなしうるもの」をあらためて問う特別展「跳躍するつくり手たち:人と自然の未来を見つめるアート、デザイン、テクノロジー」が京都市京セラ美術館でスタートした。会期は6月4日まで。

文=三澤麦(ウェブ版「美術手帖」編集部)

展示風景より、岩崎貴宏《Out of Disorder(Layer and Folding)》(2018)、《アントロポセン》(2023) 作家蔵

 環境問題やテクノロジーの進歩など、現代社会において「人間こそがなしうるもの」をあらためて問う特別展「跳躍するつくり手たち:人と自然の未来を見つめるアート、デザイン、テクノロジー」が京都市京セラ美術館でスタートした。会期は6月4日まで。

 本展の企画・監修を担当するのは、デザインジャーナリストの川上典李⼦だ。展示には日本のアート、デザイン分野の気鋭作家20名(グループ)が参加。過去と未来、自然と人⼯、情報環境と実社会といった様々な関係性を接続、再解釈することが目的だ。

川上典李子(前列左から2番目)と参加作家ら

 会場では、作品を「ダイアローグ」「インサイト」「ラボラトリー」「リサーチ&メッセージ」の4つのセクションで紹介。セクション1「ダイアローグ:⼤地との対話からのはじまり」では、木や土といった自然の素材との対話を、現代の感性をもって丁寧に行う、工芸をベースとしたつくり手たちの作品群が紹介されている。

京都市京セラ美術館 特別展 「 跳躍するつくり手たち:人と自然の未来を見つめるアート、デザイン、テクノロジー 」展示風景より

 ガラス作家の津守秀憲は、土とガラスを組みあわせる混合焼成の技法で生み出した、独特な質感の作品を展示している。出展作品のうちのひとつ「存在の痕跡」シリーズは、化石や鉱石、地殻など自然界の物質が長きにわたり変容してきたことに対する感動や畏怖が発想の起点となっている。

展示風景より、手前は津守秀憲《存在の痕跡’22-4》(2022) 作家蔵

 木桶職人の家系に生まれた中川周士は、人間国宝の父・中川清司が生み出した技法「柾合わせ(まさあわせ)」を用いて制作された「Born Planets」シリーズを展示。柾合わせは、切断面から乾燥していく木を年輪の方向をあわせて寄せることで、本来の状態に近づけることができるというもの。作品には樹齢300年の吉野杉を用いることで、その木が重ねてきた歴史にも着眼点を置いている。

展示風景より、手前は中川周士「Born Planets」シリーズより《Rounded Inside》(2022) 作家蔵

 セクション2 「インサイト:思索から生まれ出るもの」では、人と自然の関係を切り離すことなく思索する、各作家による複数性の視点が際立つ作品が展示されている。

京都市京セラ美術館 特別展 「 跳躍するつくり手たち:人と自然の未来を見つめるアート、デザイン、テクノロジー 」展示風景より

 アーティストの岩崎貴宏は現代を「自然とテクノロジーの共生を多元的に認識すべき時代」とし、作品を通じて水平と垂直の視点を提示。「Out of Disorder」シリーズでは、タオルや糸で形成された地層の上に建設された鉄塔やクレーンから都市の脆弱性を示すとともに、地下に埋没していく膨大な歴史と急速に変化をしていく都市のタイムラインを表すことで、岩崎がその危うさに警鐘を鳴らすものだ。

 また、《アントロポセン》は、岩崎が2011年の東日本大震災で目の当たりにした大量の廃棄物の記憶を起点に制作された新作。有害なものが目の前から一掃されても地球上のどこかには存在するという気づきを、床に配置された大量の清掃用具を通じて我々に与えてくれる。

展示風景より、岩崎貴宏《Out of Disorder(Layer and Folding)》(2018)、《アントロポセン》(2023) 作家蔵
展示風景より、岩崎貴宏《Out of Disorder(Layer and Folding)》(2018)、《アントロポセン》(2023) 作家蔵

 東日本大震災を契機に「死生観」や「再生」について考えを巡らせた美術家の高橋賢悟は、自然への畏怖や死生観をテーマに 0.1ミリの造形を駆使した新作「Re: pray」シリーズを発表。祈るように造形された動物と朽ちることのない花は再生を示唆している。その生命に花を手向けるような自身の態度を作品に落とし込んだものだ。

展示風景より、髙橋賢悟《Re: pray》(2021) 井口靖浩蔵
展示風景より、髙橋賢悟《Re: pray》(2021) 井口靖浩蔵

 セクション3 「ラボラトリー:100年前と100年後をつなぎ、問う」では、今日まで継承されてきた技巧と現代のテクノロジーを掛けあわせることで、さらなる豊かさを追求しようとする作品群が紹介されている。

 遊び心ある独自のアウトプットが目を引いたのは、開化堂ディレクター・八木隆裕とライゾマティクスの石橋素、柳澤知明、クリエイティブ・ディレクターの三田真一による《Newton’s Lid》だ。本作は「100年後の未来に茶筒の持つ意味が変わっていたら」という発想から生まれたもの。伝統技法を用い、高い気密性と滑らかな開閉性が実現されている茶筒は自然と蓋が閉まるのも特徴のひとつだ。それを地球の重力を可視化するものとらえ、100年後に宇宙を旅するであろう人間にとっての「地球を懐かしむお土産」になりうるのではないかという新たな価値創造を提示した。

展示風景より、八木隆裕+ 石橋 素・柳澤知明 / ライゾマティクス+三田真一《Newton's Lid》(2023) 作家蔵

 セクション4「リサーチ&メッセージ:未来を探るつくり手の現在進行形 」では、自らの問題意識を丁寧にすくい上げ、様々なアウトプットでその思考をうながすことを積極的に展開するデザイナーの取り組みを紹介する。

 吉泉聡を代表とするデザインスタジオ・TAKT PROJECT は、思考を喚起するかたちあるデザインを「Evoking Object」と名付け、それらを通じてつねに人間の想定を超えるような状況をつくり出すことを実践している。

 新作《glow ⇄ grow: globe》は、光で硬化する液体樹脂をプログラミングしたLEDで直接固め続けるというもの。光を受けて変化してゆく形状と、その形状を受けて変わり続ける光の表情が相互関係となり、自然と人工の融合プロセスをデザインしたものだ。

展示風景より、TAKT PROJECT《glow ⇄ grow: globe》(2023) 作家蔵
展示風景より、TAKT PROJECT《glow ⇄ grow: globe》(2023) 作家蔵

 もうひとつの新作《black blank》は、磁性を持った液体が白い壁を登ってゆこうとする一見奇妙な印象を受ける作品だ。これについて吉泉は「デザインの目的を、『与える』ことではなく、創造性を『引き出す』ものと再定義したい」と述べる。本作は鑑賞者の様々な「心象」を喚起することのみにフォーカスされた、デザインの原初的な実験と言える。

展示風景より、TAKT PROJECT《black blank》(2023) 作家蔵

 「A–POC ABLE ISSEY MIYAKE」は、身体と衣服、自然環境、社会などの関係性を探りながら「身にまとう喜び」を感じる衣服の実現を目指すもの。出展作品である《TYPE-Ⅱ 004》は、現代アーティスト・宮島達男との協働により誕生した。宮島作品のテーマである「時間」「生命」を取り入れることで、「変化し続ける」「永遠に続く」といった同ブランド発展のためのステートメントとなる作品だ。

展示風景より、A–POC ABLE ISSEY MIYAKE《TYPE-Ⅱ 004》(2023) 作家蔵

 ニューヨークを拠点に活躍するデザイナー・田村奈穂は、「瞬間を切り取る」をテーマにWonder Glass社から展開される照明器具「Moment」シリーズの《フロート》を展示。ヴェネチアの運河を静かに眺めるような時間を光のゆらぎと同美術館の庭園を借景することで創出したこの作品からは、田村の「考えるきっかけをつくり、明るい未来への道筋を探りたい」というデザイナーとしての意欲が感じられるのではないだろうか。

展示風景より、田村奈穂、Wonder Glass社《フロート》(2013〜15) Wonder Glass社蔵

 各セクションに設置されているモニターで映し出されているインタビュー映像は、映像監督・写真家の林響太朗によるもの。工房で自身の作品と向きあう作家のすがたと、時の流れを丁寧に掬い上げたみずみずしい映像は、「跳躍する/しようと試行錯誤する」作家たちのリアルをとらえたものだ。

展示風景より、林響太朗《つくり手たちのすがたカタチ》(2023) 作家蔵

 本展の開催に際し、企画・監修を務めた川上は次のように企画の意図を述べた。「昨年逝去した三宅一生さんとの生前のやり取りもあり、領域を超えた考えの対話をアートやデザインという個別の分野に留まらず、領域を横断し協働するこの躍動的な動きこそが新しい未来をつくるきっかけになると感じている。人々が育んできた文化を尊敬し、受け止めるとともに、この文化拠点である京都からメッセージが発信できたらと思う」。

 社会情勢が大きな変化をみせる昨今、いまこそ様々な領域の強みを交換しあいながら、新たな価値創造に向けたビジョンを描いていくときなのではないだろうか。本展はそのような未来に対する考えについて、対話をしあう第一歩を踏み出させてくれるものである。

編集部

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