「第8回 東山魁夷記念 日経日本画大賞展」が上野の森美術館で開催。気鋭の作家たちが新たな日本画のかたちを提示
新進気鋭の日本画家を表彰し展示する「第8回 東山魁夷記念 日経日本画大賞展」が上野の森美術館で開催される. 会期は6月1日~6月6日。
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「第8回 東山魁夷記念 日経日本画大賞展」が上野の森美術館で開催される。会期は6月1日~6月6日。
同展覧会は21世紀の美術をになう新進気鋭の日本画家を表彰し、展示するもの。満55歳以下の日本画作品を描く画家を対象に、全国の学芸員や大学教授、研究者、評論家に推薦を依頼。今回は57作家63作品が推薦された。その後、高階秀爾(大原美術館館長)、島田康寛(美術評論家)、草薙奈津子(平塚市美術館特別館長)、尾﨑正明(茨城県近代美術館館長)、菊屋吉生(山口大学名誉教授)、加藤弘子(東京都現代美術館事業企画課長)の6名の選考委員が選考。今回は入選した28作品が展示される。
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今回、入選作品のなかから大賞に選ばれたのは谷保玲奈の《共鳴/蒐荷》(2018/2020)だ。谷保は1986年東京都生まれ。一貫して海や陸の生物、植物、昆虫などを複雑な構図の中で描いてきた作家で、同作は《共鳴》と《蒐荷》の2点が、中央でつながるように描かれており、一対の作品として展示されている。
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谷保の推薦者のひとりである元神奈川県立近代美術館主任学芸員の橋秀文は、本作について、暖色と寒色が入り交じり強烈な印象を与える作品であるとしたうえで、横浜の三渓園内にある旧燈明寺本堂の自然光のなかで展示するという試みも含めて、コロナの時代の新たな鑑賞体験を提示したと評した。
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受賞した谷保は本作の制作背景について、次のように語る。「新型コロナによる自粛のなかで、制作の気力が消え、自身が世界と密接していることを思い知らされた。しかし昨年の7月以降、自身と絵画の関係を清算するように思索を重ねた。すでに描いていた《共鳴》に対応する《蒐荷》は、何かに突き動かされるように描いた」。
選考委員特別賞には佐藤裕一郎の《Koivumaisema―白樺のある風景》(2018)が選ばれた。佐藤は文化庁在外研修員としてフィンランドに赴き、現在も同国に滞在中。本作は目の前の自然を写実的にとらえ、紙本に部分的に胡粉を塗り、黒鉛で細密に描き進めた。推薦者の泉谷復古館館長である野地耕一郎は、長谷川等伯《松林図》にも似た水墨画のイメージをそこに見出したとしており、日本画ならではの静謐な空気感を味わいたい。
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中村ケンゴの《収蔵庫》(2018)は、岩絵具、顔料、アクリル絵具を用いて近代絵画における静物画のイメージを描いた作品。画面全体に描かれた静物群に、推薦者の東北芸術工科大学専任講師である小金沢智は、日本美術が西洋の美術動向をとりいれた歴史を見出した。西洋美術に典型的な静物を、日本画の技法によって描くことで、美術史に対する様々な問いが提示されていると評価した。
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村山春菜《れいわの改新2019》は、日本画らしからぬ揺れ動く線で、ビルや道路、工事現場を俯瞰した構図によって描いた作品だ。子供のころからた絵を描くことが好きだった村山の線に、推薦者である金沢美術工芸大学名誉教授の土屋禮一は、「生を写す」写生を見出したという。
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奥山加奈子の《夢十夜》(2018)は、地面で枯れていくアザミを描いた作品。岩絵具と胡粉によって緻密に描かれたアザミと、硫黄で焼いた銀箔による余白部分が強い印象を与える。奥山はもともと洋画家として出発したが、日本の気候のなかの植物の質感を表現するための手段として日本画を選び、研鑽を積んできた。推薦者である大阪中之島美術館準備室の小川知子は、夏目漱石の同名小説から取られたそのタイトルが想起させる、独特の世界観についても評価した。
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最後に、小林明日香《出発、あるいは到着》を紹介したい。地下鉄のホームの曲面の壁をモチーフとした同作は、そこに反射した光や、歪んで映る人影が強い揺らぎをもって描かれている。筆描き、木炭デッサン、顔料塗布、洗いを組み合わせた技法によって生まれたこの揺らぎの表現について、推薦者の豊田市文化振興課の天野一夫は、現代の感覚と日本画との新たな接点であると評価した。
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ほかにも、従来の日本画の定型を覆す斬新な挑戦を行う作品がそろった本展。これまでに日本画に興味がなかった層にもその魅力を訴えかける展示となっている。
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