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松山智一が語るアーティストの社会的役割とは? 国内3年ぶりの個展がKOTARO NUKAGAの新スペースで開幕

天王洲に拠点を置くKOTARO NUKAGAが、新たなスペースを六本木のピラミデビルにオープン。そのこけら落としとなるのは松山智一にとって国内では3年ぶりとなる個展だ。本展開催に際し、アメリカから帰国した松山と、ギャラリーオーナーの額賀古太郎が記者会見を行った。

松山智一と額賀古太郎

 昨年、中国・上海の龍美術館(ロン・ミュージアム)で大規模個展を開催し(21年に重慶の龍美術館重慶館に巡回)、大きな注目を集めたニューヨーク在住のアーティスト・松山智一。その国内では3年ぶりとなる個展「Boom Bye Bye Pain」が、KOTARO NUKAGAの新スペースのこけら落としを飾る。

 会場となるのは、東京を代表するアートコンプレックスのひとつである六本木のピラミデビルの2階に新たに誕生したKOTARO NUKAGA。同ギャラリーは同じく都内のアートコンプレックスである天王洲のTERRADA ART COMPLEXにもスペースを構えており、六本木は2つ目の拠点となる。

展示風景より

 同ギャラリーオーナーの額賀古太郎は、六本木に新たなギャラリーを開いた理由について、「海外の文化も交差し、つねに新しい情報が発信されている場所。アートと社会の接点をつくるという意味で素晴らしいロケーションだ」と語る。

会見に登壇した松山智一と額賀古太郎

 コロナ禍ではアート界も大きな経済的影響を受けてるなかでの新スペース開廊だが、額賀は「アーティストは活動を止めない。いまの社会を描写し、語られない歴史も紡いでいくと同時に、未来を予兆させてくれる存在。そういう人たちに活動する場を提供することは意義深いこと」と、ポジティブな姿勢を見せる。

 このスペースのこけら落としとなるのが、松山智一の個展 「Boom Bye Bye Pain」だ。

展示風景より
展示風景より

 額賀はこけら落としとして松山の個展を選んだ理由として、「松山はたとえ世界が困難にあっても、アーティストの社会的役割を全うする。多くの方々と作品を共有することで気づきを得てもらえれば」と話す。

 アメリカと日本というふたつの国を行き来し、グローバルなアート界でも存在感を発揮する松山は、アイデンティティを自身の作品の大きなテーマとして掲げている。ペインティングを中心に彫刻やインスタレーションも手がける松山は、東洋と西洋、古代と現代、具象と抽象といった両極の要素が見られる作品で知られており、これまでに米国内の主要都市のほか、ドバイ、上海、香港、台北、ルクセンブルグなど世界各地で展覧会を開催。2020年にはJR新宿駅東口広場のアートスペースで巨大彫刻を設置し、話題を集めた。

松山智一

 今回の個展タイトルである「Boom Bye Bye Pain」は、1992年にリリースされたBuju Bantonのポップレゲエソング「Boom ByeBye」と「Pain」という2 曲のタイトルを融合したもの。撃音を表す「Boom」と、それから連想される「Bye Bye」を掛け合わせるブラックミュージック特有のスラングは、アフリカ系アメリカ人たちによるゲイへの差別的なメッセージという意味も孕んでおり、発表当時は物議を醸した。

 「作品のテーマはアイデンティティ。1992年にレゲエシンガーが発表し、マイノリティが別のマイノリティを批判するという、複雑な構造を露呈する歌詞で物議を呼んだ楽曲タイトルをベースにしている。建国当初から不平等で成り立っているアメリカで、いまでも自分の不平等とどう立ち向かっていくか、なぜ自分が存在しているのかという戦いの渦中で活動を続けている」。

 ニューヨークという土地で痛み(「Pain」)を感じつつも生を実感してきたという松山は本展において、いまの私たちの存在意義を考えるきっかけを提示する。「コロナのパンデミックは世界全体が強引に共有させれられてしまったもの。世界的な危機的状況下にあるからこそ、いかに前向きなメッセージを日本で発信できるかを考えて今回の個展のタイトルに至った」とその背景について語る。

展示風景より

 コロナ禍では多くの美術館が休館し、アーティストたちにも影響は及んでいる。松山は、この時代におけるアーティストの社会的な役割についてもこう言及した。

 「一見、アーティストに社会的な役割はないようにも見える。僕も20年考え続けてきたが、例えばBlack Lives Matterやアジアンヘイトなどの出来事が起こったとき、それがアートで可視化されると、報道などとは違った役割を持つことができるし、リアリティをとらえることができる。それは僕らアーティストができる非常に重要なことだと思う」。

編集部

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