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2020.12.16

異文化が結びつき生まれた名品を6つの物語で紹介。サントリー美術館のリニューアル・オープン記念展第3弾が開幕

サントリー美術館のリニューアル・オープン記念展、その第3弾として「美を結ぶ。美をひらく。美の交流が生んだ6つの物語」が開幕。江戸時代から1900年のパリ万国博覧会に至る約300年間に生み出された品々を選び取り、展示する。会期は12月16日〜2021年2月28日。

展示風景より、左から《藍色ちろり》(18世紀)、《色絵花鳥文六角壺》(17世紀)
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 サントリー美術館のリニューアル・オープン記念展、その第3弾として「美を結ぶ。美をひらく。美の交流が生んだ6つの物語」が開幕した。会期は12月16日〜2021年2月28日。

 同展は、サントリー美術館のコレクションのなかから、江戸時代から1900年のパリ万国博覧会に至る約300年間に生み出された品々を選び取り、展示するものだ。国、時代、素材を越えて文化が結びつくことで生まれた珠玉の名品を、6つの章立てで紹介する。

展示風景より、左から《藍色ちろり》(18世紀)、《色絵花鳥文六角壺》(17世紀)

 6つの章の構成は以下のとおり。「ヨーロッパも魅了された古伊万里」「将軍家への献上で研ぎ澄まされた鍋島」「東アジア文化が溶け込んだ琉球の紅型」「西洋への憧れが生んだ和ガラス」「東西文化が結びついた江戸・明治の浮世絵」「異文化を独自の表現に昇華したガレ」。陶磁器から織物、染織、ガラス、浮世絵と、様々な形態のものが一堂に展示される。

「東アジア文化が溶け込んだ琉球の紅型」の展示風景

 「ヨーロッパも魅了された古伊万里」では、17世紀後半以降に本格的にヨーロッパに輸出され、多くの人々を魅了した古伊万里の美をいまに伝える名器が並ぶ。

 展示の切り口はユニークで、例えばアジア各地で古来より身近な道具の素材として、愛されてきた瓢箪のかたちをした器に着目して並べられている。中国では子孫繁栄の吉祥の意味もある瓢箪をかたどった古伊万里の水差の数々は、東アジア文化圏の伝統が混ざり合い、昇華された形態であることがわかる。

 「ヨーロッパも魅了された古伊万里」の展示風景より

 また、古伊万里のなかでも人物を描いたものに着目した展示もある。西洋の人々に東方への憧れを喚起したであろう、華やかな衣装を着た女性が描かれた大皿や大蓋物などが目にも鮮やかだ。桜の枝に囲まれて扇子を手に踊る美女が描かれた《色絵桜美人文大皿》(18世紀)や、華麗な打掛を着た女性像の《色絵女人形》(17世紀)などはその典型と言えるだろう。

展示風景より、《色絵桜美人文大皿》(18世紀)
展示風景より、《色絵女人形》(17世紀)

 他にも重要文化財の《色絵花鳥文八角大壺》(17〜18世紀)や、新収蔵品の《色絵花卉文大皿》(17〜18世紀)などの名品が取り揃えられ、鮮やかな色彩と文様が来場者を楽しませてくれる。

展示風景より、左から《色絵獅子鈕波鷹文壺》(18世紀)、《色絵花鳥文八角大壺》(17〜18世紀)

 「将軍家への献上で研ぎ澄まされた鍋島」では、江戸時代に佐賀藩(鍋島藩)の運営する鍋島藩窯でつくられた高級磁器・鍋島を紹介する。その多くは徳川将軍家の献上品や藩の贈進の品々などで、高い品質が目指された。

 展示では、構図や色彩に優れた作品を選りすぐって紹介するとともに、「白抜き文様」の繊細な美にも着目。中心から縁へ向かって回転しながら徐々に大きくなっていく、墨弾きによる「紗綾形文」の高い技術がうかがえる《染付雲雷文大皿》(17〜18世紀)や、花唐草文の優美な輪郭線が目を引く《染付唐花文皿》(17世紀)など、鍋島の高い技術による美しい造形を堪能したい。

展示風景より、《染付雲雷文大皿》(17〜18世紀)
展示風景より、左から《染付唐花文皿》、《薄瑠璃地染付花文皿》、《染付唐花文皿》(すべて17世紀)

 「東アジア文化が溶け込んだ琉球の紅型」では、15世紀から19世紀にかけて繁栄した琉球王国でつくられた紅型を紹介する。紅型とは、型紙を用いて模様を染め出すもので、中国や日本、東南アジア諸国といった周辺各国の染色技術の影響を受けながら、様々な技法が発展した。

 ここでは、紅型の裂地コレクションを特集するとともに、デザインを生み出す型紙にも着目し、職人技が駆使された型紙ならではの美も取り上げる。

展示風景より、《松皮菱に鶴丸梅芭蕉模様白地型紙》大模様型、《花籠牡丹飛鳥模様白地型紙》大模様型(ともに19世紀)

 印象的な裂地が豊富に取り揃えられている。赤、紫、黄、藍などに染められた山々と、桔梗色に染められた波が独特のコントラストを生み出す《染分地桜波連山模様裂地》(19世紀)や、色差しされた梅の花が美しい紅型衣裳を解いて布地に仕立てた《花色地瑞雲に梅花散し模様裂地》(19世紀)をはじめ、印象的な色柄を楽しめる。

展示風景より、左から《染分地桜波連山模様裂地》、《白地松皮菱扇に風景小禽模様裂地》、《黄色地牡丹蝶鳥に桐桜模様裂地》(すべて19世紀)
展示風景より、《花色地瑞雲に梅花散し模様裂地》(19世紀)

 「西洋への憧れが生んだ和ガラス」では、ヨーロッパのガラス器の憧れと日本の美意識が結びついて誕生した、「びいどろ」や「ぎやまん」と呼ばれたガラスを展示。

「西洋への憧れが生んだ和ガラス」の展示風景

 文様部分を透かし彫り状に打ち抜いた型に、ガラスを吹きこんで繊細な葡萄唐草を表現した《緑色葡萄唐草文鉢》(18世紀)や、薩摩藩の特産品として採算を度外視してつくられ、乱れのないカットに高い技術がうかがえる《薩摩切子 藍色被船形鉢》(19世紀中頃)など、当時の技術の粋を集めた造形を堪能できる。

展示風景より、《緑色葡萄唐草文鉢》(18世紀)
展示風景より、《薩摩切子 藍色被船形鉢》(19世紀中頃)

 「東西文化が結びついた江戸・明治の浮世絵」は、当時の流行を敏感にとらえ、つねに世相を映し出していた浮世絵を取り上げる。

 誰もが知る江戸時代中期から後期にかけての喜多川歌麿や歌川広重といった有名絵師の浮世絵だけでなく、本展では幕末から明治維新にかけて西洋風俗をとらえた「横浜浮世絵」や「開化絵」も展示する。

喜多川歌麿《女織蚕手業草》十二枚続のうち(1798〜1800頃)

 透視図法や陰影法、明暗法など様々な技法を巧みに用いて新機軸を打ち出した小林清親が、日本最初の鉄道の夜間に走る姿を描写した《高輪牛町朧月景》(1879)や、歌川芳員・員重が豪華な遊郭で外国人たちが宴を楽しむ様子を描いた《横濱港崎廓岩亀楼異人遊興之図》(1861)など、西洋と東洋の文化が混ざり合う新しい時代の到来を感じさせる浮世絵が新鮮だ。

展示風景より、小林清親が《高輪牛町朧月景》(1879)
展示風景より、《横濱港崎廓岩亀楼異人遊興之図》(1861)

 展覧会の最後を飾るのは、アール・ヌーヴォー期を代表するフランスの作家、エミール・ガレの作品。フランスの伝統に異国の美術のエッセンスを取り入れたガレだが、本展ではとくに日本美術と関わりの深い作品を展示する。

 象嵌技法で戸棚に表された木々や草花、蝶の装飾に東洋絵画からの影響が見て取れる《飾棚「森」》(1900頃)や、ショウジョウバッタや金粉をまぶした葉の表現が日本の蒔絵を彷彿とさせる《花器「バッタ」》(1878頃)などからは、日本美術の意匠を取り入れながらも、独自の表現に発展させていったガレの軌跡が理解できるだろう。

展示風景より、左からエミール・ガレ《ティー・テーブル「水仙」》(1897頃)、《ランプ「ひとよ茸」》(1902頃)、《飾棚「森」》(1900頃)
展示風景より、エミール・ガレ《花器「バッタ」》(1878頃)

 サントリー美術館の貴重なコレクションから、東西の文化を融合させて新たな美を誕生させた作品が並ぶ同展。美術や工芸の歴史が、様々な交流によって紡がれてきたことを、改めて感じさせてくれる展覧会となっている。