彫刻家・名和晃平のこれまでにない個展「Oracle」が、東京 ・表参道のGYRE GALLERYで始まった。
今回、名和は9つものシリーズを一堂に展示。オブジェクトを透明の球体で覆った「PixCell」をはじめ、「Black Field」「Trans」「Dune」「Moment」「Catalyst」「Blue Seed」「Rhythm」「Silouette」までが展示され、このうち「PixCell」「Trans」「Catalyst」以外は初公開となるシリーズだ。 しかも展示作品すべてが2020年の新作となっている。
これまで、名和はひとつの展示空間にひとつのシリーズを見せるということを常としてきたが、今回はひとつの展示室に複数のシリーズが同居する。入口から異なる種類の作品が重なり合い、次々と見えてくるような構成だ。名和は、この展覧会全体の構成が作品だと語る。「こうやって複数シリーズを組み合わせた展示構成は初めてなので、その構成に一番時間がかかりました。それぞれのシリーズが関係しあって、見えてくるものがなんなのか、自分でも楽しみでした」。
ではどのような作品が実際に並んでいるのか、そのハイライトを見ていこう。
会場冒頭にあるのは、「PixCell」シリーズの《PixCell-Crow#5》と、油絵具をメディウムにした「Black Field」シリーズの《Black Field》だ。シリーズ自体も初公開となる後者は、名和にとって初の油絵具を使用した作品。平面に塗布された油絵具にどんどん皺が入り、その変化に耐えられない場所は裂けていく。会期中も状態変化が続く「場」を主題としたものだという。
会場でも特異な輝きを放つのは、奈良国立博物館に収蔵されている14世紀に制作された《春日神鹿舎利厨子》へのオマージュ作品である《Trans-Sacred Deer (g/p_cloud_agyo)》(通称:雲鹿)。《春日神鹿舎利厨子》を3D上でデータ化し、京都の仏師と協力し、木彫、漆塗り、箔押しなど伝統的な技法を施した。鹿の背の上に乗る舎利の内部には、「PixCell」で使用される透明な球体が使用されているのもポイントだ。
もっとも大きな展示室では、平面の4シリーズが展示されているが、とりわけ注目したいのが、「Blue Seed」シリーズだ。まるでモニターのように画面が変化し続けるこの作品。特殊な顔料が塗られた半透過性の板の表面に、プログラミングされたUVレーザーを照射することで、青いシルエットが生まれては消えていく。植物の種子や胚珠をモチーフにすることで、生命の誕生や存在の儚さ、明滅しながらも維持されるシステムとしての永続性を示す。
また「Blue Seed」と向かい合うかたちで展示された《Dune#16》は、ランドスケープをドローイングとして表現するというもの。複数のメディウムと粒度の異なる絵具、水などを支持体の上に流し広げることで、複雑なテクスチャを生み出した。
会場の最後を飾るのは「Rhythm」シリーズ。大小様々な球体(セル)を配置することで、その名の通り作品の中に律動をもたらすこの作品。表面をすべてグレーのパイルで植毛することでテクスチャが均質化され、独特の奥行きが生まれている。まるでウイルスのようにも見えるが、それは偶然の産物だという。
このように、様々なシリーズが並ぶ本展は、ある意味でコロナ禍の産物だ。名和はパンデミックによる外出制限でこれまで以上に国内にとどまる時間ができたと話す。「制作に時間が割けたことは大きいし、いろんな実験ができました。(コロナ禍は)決していい状況とは言えない。でも、『アーティストは作品と向き合え』と言われているのだと思い、制作の手は一切休めませんでした」。
今回発表された真新しいシリーズたちは今後どのように展開していくのか。その萌芽を、この展覧会で目撃してほしい。