世界を代表する美術館のひとつ、ルーヴル美術館。この美術館の象徴でもあるガラスのピラミッドに、名和晃平の新作が登場した。これは、日仏合同プロジェクトである「ジャポニスム 2018」公式企画のひとつとして実施されたもの。
《Throne》と名付けられたこの作品。高さは10m以上、重さは3トンにも及ぶ巨大彫刻だ。江戸時代末期までに極度に発達した各地の山車のリサーチから生まれたという本作は、曲線と直線が複雑に混ざり合った造形。タイトルの「Throne」とは玉座を意味する言葉で、作品には「権力や権威の象徴」という意味が込められている。
名和は本作設置の経緯についてこう話す。「国際交流基金から約1年前に作品設置の話がありました。ルーヴル美術館という場所、そしてガラスのピラミッドという建築の意味を十分に考え、『空位の玉座』を設置するプランを考えました。ルーヴル美術館に来ると、ピラミッドをプラットフォームとして館内にアプローチするようになっています。そもそもピラミッドは過去にアクセスするプラットフォームでもある。これに一番ふさわしいものが《Throne》だと思いました」。
なぜ名和は「空白の玉座」を生み出したのか? 本作をよく見ると、中央部には子供が座れるほどのスペースが設けられている。ここには「いま、玉座に座るのは大人ではない」という名和の考えが反映されているという。
「権威というものは何千年前からあり、現代においても様々な姿で存在すると思います。だとすればそれは人間の性(さが)であり、きっと未来にもあるだのでしょう。そして、未来はAIやコンピュータなど、『新しい知性』によって深く影響受けていくのではないかという予感がいまの世の中にある。その新しい知性はまだ子供の状態です。だからいまの時代に(その子供が座るであろう)空白の玉座を表現しておきたかった」。
黄金に輝きながら、まだ誰も座っていない玉座。「(《Throne》は)権力を象徴していますが、そこには誰もいないし、誰にも座ってほしくないと思っています」。
作品中央部には前面と背面にそれぞれひとつずつ、銀色に輝く球体が見える。このプラチナ箔の球体は「世界を見据える目」であり、正面は現代や未来を、背面は過去を見据える目を意味するという。「ルーヴル美術館が過去から現代に至るまでの文明を伝える美術館なので、この作品を通じて過去と現在、未来がつながる。人類最初の金箔宝飾もルーヴル美術館にあり、何千年もの長きにわたって伝わってきた金箔がピラミッドに舞い戻ってくるようなイメージです」。
本作を覆う黄金は金沢でつくられ、京都の職人たちが手仕事で貼ったもの。30のパーツで構成される複雑な造形は、コンピューター上でデジタルクレイ(粘土)を用意し、その中で削り出されたものだという。「コンピュータの中でフィジカルに削った感覚を残しながらつくった」本作では、金箔というエジプトが起源とされる技術と、最新のテクノロジーが融合している。
ルーヴル美術館に入館する誰もが通るピラミッドに設置されこの作品。館内では多くの来館者が撮影する姿も見られた。
「(ルーヴル美術館に)象徴のように置かれるのはアーティスト冥利につきると思います。こんな場所に展示することができるなんて思ってもみませんでした。未だに信じられない感覚です」。
様々な意味を含みながら黄金に輝く玉座とルーヴル美術館の融合を、ぜひその目で確かめてほしい。