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モダンデザインが夢見たもの。「モダンデザインが結ぶ暮らしの夢」展、パナソニック汐留美術館で開幕

1930年代~60年代に生み出された名作椅子から建築作品。それら「モダンデザイン」の全貌を紐解く展覧会「モダンデザインが結ぶ暮らしの夢」展が、パナソニック汐留美術館で開幕した。

 

展示風景より、イサム・ノグチ「あかり」シリーズ

 第二次世界大戦を挟む1930年代から60年代に生み出された家具や建築などに見られる「モダンデザイン」。その全貌を紐解く展覧会「モダンデザインが結ぶ暮らしの夢」が、東京のパナソニック汐留美術館で始まった。

 本展担当学芸員の大村理恵子は、「30~60年代は大量生産が本格化した時代。それを背景に生まれたのがモダンデザイン」だと話す。「大衆の生活をより豊かにするため大量生産しようとしたとき、新しい美の概念が必要だった。モダンデザインの特徴は機能的、合理的でシンプルな造形を持つということ。ヨーロッパから発信されたものだが、それぞれの国で異文化交流が生まれ、土着のデザインが生まれた」。

 このモダンデザインが日本でどのように花開いたのかを紐解くのが、この展覧会だ。

展示風景より

 展覧会の内容の前に、まずはその会場デザインに注目したい。会場設計は、森美術館で長年建築・デザインプログラムマネージャーを務めた前田尚武。日本建築を構成する要素である柱や梁、床をモチーフとしたデザインとなっており、章ごとの明確な仕切りではなく、斜めの導線を設けることで、奥へ奥へと誘われる。

展示風景より

 会場は4章からなる構成。まず、日本の知識層に大きな影響を与えたブルーノ・タウト(1880〜1938)と、そのタウトのパトロンとなった実業家・井上房一郎(1898〜1993)から始まる。

 1933年に日本に亡命して以降、日本建築の魅力をヨーロッパに伝えたタウト。本展では、その様子がうかがえるタウトの日記や、桂離宮をスケッチした画帳など貴重な資料を見ることができる。しかしここで注目したいのは、タウトと井上の協業だ。

 タウトと井上は、「タウト井上」という「ブランド」を生み出し、品質を保証したプロダクトを、タウトが内装を手がけた銀座の店舗「ミラテス」で販売。つくるだけでなく、売ることにも注力したふたりは、ミラテスによって人々の暮らしのありかたを変えることをも視野に入れていた。

「ミラテス」の包装紙や看板なども展示されている。奥に見えるのはタウトがデザインした椅子
ブルーノ・タウトがデザインした椅子

 このミラテスを訪れていたのが、続く2章で紹介されるアントニン&ノエミ・レーモンド夫妻だ。

 タウトに先んずること1919年、フランク・ロイド・ライトの助手として、帝国ホテル建設のために来日した建築家アントニン・レーモンドと、その妻でインテリアやテキスタイルをデザイナーであるノエミ。第二次世界大戦前後の約10年間をのぞき、日本で設計活動を行ったレーモンド夫妻は、日本人建築家の育成でも大きな役割を果たしたことで知られている。

笄町の自邸・事務所の写真とそのためにデザインされた椅子、照明

 会場では、レーモンドの日本の風土に根差した建築を紹介。レーモンドは、鋏状トラスを特徴とする手づくり感ある「レーモンド・スタイル」で数々の作品を手がけた。その実例である、聖ポール教会や笄町(こうがいちょう)の自邸・事務所などの図面、写真、あるいは家具などを通じ、シンプルさを追求したその思想に触れることができる。

壁面にはタウトの新スタジオを紹介する映像が投影されている。中央奥はノエミ・レーモンドがデザインした椅子

 そして展示はここから先、タウトやレーモンドと関係した日本にルーツを持つ3人のプロダクトへと続いていく。

 タウトの助手を務め、ヤクルトの容器から香川県庁舎まで、幅広いプロダクト・プロジェクトを手がけた日本を代表するデザイナーのひとり、剣持勇(1912~1971)。レーモンド夫妻のもとで現場監督を務めた経験を持つジョージ・ナカシマ(1905~1990)。そしてレーモンドの依頼でリーダーズ・ダイジェスト東京支社庭園を設計したイサム・ノグチ(1904~1988)だ。

 剣持勇の代表作とも言える籐を編んだ《丸椅子C-315-E》(1960)や《スタッキングスツール202》(1959)、木を愛したジョージ・ナカシマの椅子たち、いまなお多くの人を魅了するイサム・ノグチの「あかり」シリーズ。これらに通ずるのは、大量生産を目指した時代でありながら、手仕事の可能性を信じていたということだ。

剣持勇がデザインした家具。奥が《丸椅子C-315-E》(1960)
ジョージ・ナカシマによる椅子の数々
イサム・ノグチの「あかり」シリーズ

 新しい上質な暮らしをモダンデザインに託し、夢を見た建築家とデザイナーたち。約160点の作品・資料を通じ、それぞれの作家たちの「夢」を追体験してほしい。

展示風景より

編集部

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