人類よりもはるかに長い歴史のなかで進化を続けてきた虫。多様なその姿を着想源に、デザイナーや建築家、アーティストが作品を発表する展覧会「虫展 -デザインのお手本-」が21_21 DESIGN SIGHTで開幕した。
ディレクションにグラフィックデザイナーの佐藤卓を、企画監修に解剖学者・養老孟司を迎えた本展。佐藤は「小さい時から昆虫採集に勤しんでいて、いつか虫の展覧会をやりたいと考えていたんです。今回企画をして、もっと虫が好きになってしまいました」と語る。
会場ですぐ目に入るのは、佐藤卓が手がけた巨大な《シロモンクモゾウムシの脚》。昆虫写真家・小檜山賢二による精密写真を元に、シロモンクモゾウムシの左中脚を700倍に拡大した作品だ。壮大なスケールを感じさせる同作の向かいには大小様々な虫の標本が展示され、鑑賞者を小さな生き物の世界へと引き込む。
またその奥では、阿部洋介《虫のかたち》が展開。写真を小檜山と丸山宗利が、音楽を蓮沼執太が手がけた同作は、まさに虫たちの美しさを体験できる「昆虫のミュージックビデオ」となっている。
続く大きな展示室では、虫を「デザインのお手本」とした作品群が一堂に会する。養老による虫のための慰霊碑「虫塚」のデザインでも知られる建築家の隈研吾は、日本の建築構造設計を代表する3人とともに、トビケラが水中で身近な材料を集めてつくる巣をモチーフに作品を発表。磁石と接着剤を用いた人間のためのシェルターである《磁石の巣》、髪の毛とナッツの殻を組み合わせたパネルで建てた《髪の巣》、そして世界で最も薄い和紙で作られた《極薄和紙の巣》を見ることができる。
また、東京大学教授・山中俊治を中心としたチームは《READY TO FLY》を発表。同作は甲虫が翅(はね)を折り畳む精巧な構造を3Dプリンターで再現したもので、実際に作品に近づくと翅を広げる動作が始まる。そのほかにも虫のメカニズムの応用として、アメンボの数百倍の大きさのドームが表面張力によって水の上に自立する吉泉聡(TAKT PROJECT)による《アメンボドーム》などの作品にも注目してほしい。
加えて会場には、人間が自然を扱う際の「名付け」や、虫を前にしたときの気持ち悪い/美しいといった感情など、人と虫との関係にもフォーカスを当てた作品が並ぶ。特定の虫をモチーフとした作品の隣にはその虫の標本が展示されているため、見比べて楽しむこともできる。また、養老の言葉を記した「養老語録」や豆知識のほか、虫をもっと知るための「虫トピックス」が点在。こちらも探しながら歩いてみてはいかがだろうか。
ありとあらゆる問題に直面し、それを解くことで生き延びてきた虫たち。本展では知れば知るほど不思議な虫の世界を通して、デザインの新たな一面を描き出すことを試みる。「虫は苦手」という人も、この機会にぜひ奥深い虫の世界へ飛び込んでみてほしい。