ル・コルビュジエに師事した建築家・坂倉準三が設計し、2016年3月に惜しまれながら閉館した「旧神奈川県立近代美術館 鎌倉」。この建物を再利用した文化施設「鎌倉文華館 鶴岡ミュージアム」が6月にグランドオープンするのに先立ち、4月20日から5月6日まで「新しい時代のはじまり」展として建築を公開する。
鶴岡八幡宮宮司の吉田茂穂はこの建築について、「鎌倉の歴史や文化などを建物で紹介することはできないのかを考えつつ、いままで開催されてきた美術展の伝統を引き継いで皆さんに提供していきたいという想いで、この建物をお預かりしました」と語る。またグランドオープンの前に建物を公開する意図については「そして、坂倉準三の原点に戻り、評価が非常に高い建築をまずご覧いただこうと思って、プレオープンというかたちで本展を開催することにいたしました」と説明した。
今回の改修は丹青研究所が改修設計を担当。基本方針は1951年の建設から15年後、新館が建設された1966年当時の姿に戻すことだったという。加えて、外構整備、耐震補強、復原、保存・再生、機能向上などの整備方針もあった。
「新しい時代のはじまり」展では、2階の展示室で旧神奈川県立近代美術館 鎌倉の誕生や歴史に触れながら、今回の改修工事の概要と詳細が紹介されている。
鶴岡八幡宮の運営となった「鎌倉文華館 鶴岡ミュージアム」は、従来の西側県道からの入館ではなく、東側神社の参道からの入館を積極的に図る計画として、正面玄関を東側に設置。これまで、美術館南正面の眺望は平家池の対岸にあるカフェからに限られていたが、今回の改修ではカフェの脇に新たに門が設けられ、池の周囲の遊歩道から美術館南正面を鑑賞できるようになった。
また耐震補強としては、当初の鉄骨柱を保存して柱脚部分の補強や、構造的なバランスを取りながら各階に鋼板耐震壁を設置する補強などが行われた。
屋根について、建設当初は外周側から中庭側に向かって緩い斜面が付けられており、トップライトとなるガラスが取り付けられた鋸状の屋根が並んでいたという。しかし、ガラスの破損や金属屋根の腐食のため、1969年の改修ではトップライトの鋸屋根が平面の屋根に変わった。
今回の改修でトップライトは復元されなかったが、硬質木片セメント板や断熱材の複合板を使用し、当初の鋸屋根を再現。また、展示室のトップライトの位置にはLED照明を設置することで、竣工当時の雰囲気に近い展示空間を復活させた。
池に反射した光が天井に映り、同館のもっとも代表的な空間のひとつであるピロティや、平家池を面するプレキャスト・コンクリート製手摺り、各階段の人造石研ぎ出しの手摺りなどは、とくに手を加えず保存したという。
そのほか、これまでなかったエレベーターの設置や温湿度を管理する空調設備の全面見直しなどユニバーサル対応や機能の向上を図る改修も実施された。
なお、カフェとミュージアム・ショップの機能として、同館北側の付属屋跡地に付属棟が新たに建設された。2010年に倒れた御神木であった大銀杏の樹幹も、同棟に保存されている。
鎌倉文華館 鶴岡ミュージアムとして新たな歴史を歩み始めた旧神奈川県立近代美術館 鎌倉館。今後、同館でどのような活動が行われていくのかに注目が集まる。