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2019.3.29

東京都現代美術館がついにリニューアルオープン。3年間の休館を経て2つの展覧会が開幕

大規模改修工事のための休館を経て、ついにリニューアルオープンを迎えた東京都現代美術館。リニューアル後第1弾となる企画展「百年の編み手たち -流動する日本の近現代美術-」展と、コレクション展「MOTコレクション ただいま / はじめまして」のレポートをお届けする。

会場風景
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  3年間にわたる休館を経て、東京都現代美術館がついにリニューアルオープンオープン。企画展「百年の編み手たち -流動する日本の近現代美術-」展と、コレクション展「MOTコレクション ただいま / はじめまして」がスタートした。

会場風景

​ まず、企画展「百年の編み手たち -流動する日本の近現代美術-」展は、多様な要素の「選択的な編集」を通して制作する美術家=編み手としてとらえ、同館コレクションを核に再考。「編集」をキーワードに、日本における創造のあり方を浮き彫りにしようとする展覧会だ。

 再考するための起点は、第一次世界大戦の開戦によって、欧州からの印刷物を通した情報が減少した1914年。この年を「学習」から「編集」への転換期と位置づけ、現在までの美術家たちの活動を作品と資料によって再考するというもので、地下から2階までの3フロアを使った作品ボリュームが、その軌跡の厚みを示している。​

会場風景より、手前が有島生島《鬼》(1914)

​ そんな膨大な数の作品を区切るのは、「はじまりとしての1914年」「震災の前と後」「アンフォルメルとの距離」「複合空間のあらわれ」「日本と普遍」「流動する現在」といった、各章に冠されたキーワードだ。

 ここでは、そのなかのいくつかを紹介していく。

会場風景より、岸田劉生《椿君に贈る自画像》(1914)

 まず1章の「はじまりとしての1914年」では、美術教育や美術館の建設運動に積極的に関わった石井柏亭、そして「編集」的な制作態度に自覚的であった最初期の編み手としての岸田劉生らにフォーカス。1914年は二科展の結成や、詩と版画の同人誌『月映』が発刊された年でもある。

2章の会場風景

 そして、社会の矛盾に関心を寄せ、労働者などに向けたプロレタリア美術運動をはじめ、社会状況に対する批評的観点からつくられた作品を紹介する3章「リアルのゆくえ」や、過酷な戦争経験の記憶をベースに版画作品などを手がけた浜田知明、第五福竜丸の事件を主題とした作品《人と魚》を発表した桂ゆきなど、戦争の面影が宿る作品が多く展示される4章の「戦中と戦後」などへと続く。

会場風景より、手前が磯辺行久《脆弱な地域 イル・ド・フランス》(1997-98)

 9章「地域資源の視覚化」では、50年代の抽象と60年代のポップアートをつなぐ画家として評価された磯辺行久を大きく紹介。環境計画のパイオニアとして現在まで活動し、地域と人の営みの関係をテーマに作品を手がけてきた磯辺の作品をまとまったかたちで見ることができる。

会場風景より、手前が舟越桂《遅い振り子》(1992)

 そうして人と環境をつなぐ働きかけを行ってきた作家がいるいっぽう、日本と世界、個別性と普遍性といった二重性を往還するように作品化した人々も存在する。11章「日本と普遍」では、80〜90年代、グローバリゼーションの波が押し寄せるなかでハイブリッドな作品を生み出したO JUN、辰野登恵子、会田誠らに着目する。

会場風景より、毛利悠子《I/O》(2011-16)
会場風景より、奥が杉戸洋《the plane》(1996-97)

 そして1990年代から現在。国や歴史といった大きな枠組みを解体するように、日常や身の回りの事物から発想した作品によって別の可能性を提示する作家たちの実践を紹介するのが12章「抵抗のためのいくつかの方法」だ。本章では、杉戸洋、奈良美智、毛利悠子、Chim↑Pom、風間サチコ、梅沢和木らの作品が並ぶ。

 100年の美術史の終幕は14章「流動する現在」。ここでは、ホンマタカシ、松江泰治による作品が展示されている。彼らの作品がとらえる郊外、都市の諸機能の痕跡が見せるのは、過去も未来もなくただ流動する現在、そして人間の営みの連鎖だ。

会場風景より、名和晃平《PixCell-Deer #17》(2008-09)
宮島達男 Keep Changing, Connect with Everything, Continue Forever 1998

 いっぽう、企画展と同時開催するのはコレクション展「MOTコレクション ただいま / はじめまして」にも注目したい。本展では、休館中に新たに収蔵された約300点の作品から、主に2010年代に制作された作品群や修復後の作品を紹介している。

会場風景より、右が中園孔二《Untitled》(2012)
会場風景より、五月女哲平《Pair》(2014)

 日用品、複製イメージ、美術作品や展示備品などをモチーフとした引用した作品を手がける末永史尚や、視覚体験の複数性をポジティブにとらえ、絵画が内包する物語を鑑賞者自らが紡ぎ出せるシステム=作品を生み出す五月女哲平。また、状況をつくり、人々を集め、そのなかで一時的に結ばれる関係と出来事から作品を紡ぐNadegata Instang Party(中崎透+山城大督+野田智子)や、2015年に弱冠25歳でこの世を去った画家・中園孔二の作品も並ぶ。

会場風景より、マーク・マンダース《椅子の上の乾いた像》(2011-15)

 国外からは、主に写真やビデオを媒体に、様々な場所で出会う人々のコミュニケーションから作品を制作するヂョン・ヨンドゥ、「建物としてのセルフポートレイト」と称する着想を得て以来、「建物」の形式を用いて架空の人物の自画像をつくり出してきたマーク・マンダース。そして、インドネシアのジャカルタを拠点に絵画、インスタレーション、ビデオなどを用いた作品制作を行うサレ・フセイン、竹やラタンからなる立体作品に取り組むソピアップ・ピッチなど。

 これら最新のコレクションは、企画展でコレクションの歴史を体験したあとの鑑賞をおすすめしたい。

会場風景より、サレ・フセイン《アラブ党》(2013)

 現時点で5395点におよぶ東京都現代美術館のコレクション形成は、大きく3つの時期に分けられる。まずは、開館にともない東京都美術館(東京府美術館の収集含む)から引き継いだ、1927〜74年の作品。次に、75年に開館した東京都美術館の新館(現在の東京都美術館)が収集した、充実した版画作品を特徴とするコレクション。最後に、開館準備の88年から現代にいたるまでの作品。そして、それらに共通する最大の特徴は、同時代の美術を収集し、前史の先鋭性に着目してきたということだという。

 時代と表現とが糾えるように交差しながらかたちづくられた作品と、それらが集まることで見えてくる大きな流動。日本の近現代美術史を体験し、自身のなかで読み解く(編集する)ための一助にもなる展覧会だ。​

会場風景より、棚田康司《雨の像》(2016)
会場風景より、靉嘔《田園》(1956)

​ また今回のオープンに際して美術図書室の什器デザインやレイアウトが一新。カフェやレストランもリニューアルし、遠山正道が代表を務めるスマイルズが運営する「二階のサンドイッチ」と「100本のスプーン」が出店しているため、こちらもあわせて楽しみたい。