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聴くだけではない、新しいオーケストラ体験。「落合陽一×日本フィル プロジェクトVol.2《変態する音楽会》」をレポート!

オーケストラを耳と目だけではなく、全身で音楽を「体験」する「変態する音楽会」が8月27日、東京オペラシティコンサートホールにて行われた。ピクシーダストテクノロジーズCEOの落合陽一、日本フィルハーモニー交響楽団という異色のタッグで実現したこの音楽会の様子をレポートする。

「落合陽一×日本フィル プロジェクトVol.2《変態する音楽会》」の様子 撮影=山口敦

 「聴覚障害を持つ人々も一緒に音楽を楽しむ方法はないか」。この問題意識を発端に、去る2018年4月、ピクシーダストテクノロジーズCEOの落合陽一と日本フィルハーモニー交響楽団がタッグを組み、音、光、振動と触覚でオーケストラを体験する「耳で聴かない音楽会」が開催。

 そして8月27日、日本フィルは落合とともに「耳で聴かない音楽会」に続く第2弾となる試みを、東京オペラシティコンサートホールで発表した。オーケストラの根幹にある「演奏」を尊重しながらも、テクノロジーをとおして約300年の歴史を持つオーケストラの聴き方、楽しみ方をアップデートしたいとの思いをもとにした「変態する音楽会」。日本フィルと落合が再タッグを組んだこの音楽会の様子をレポートする。

「変態する音楽会」の様子。指揮者の海老原光 撮影=山口敦

 「変態する音楽会」でまず注目したいのが、全身で音楽を「体験」するために来場者(一部)に貸し出されたデバイスだ。振動が身体に音を伝える「ボディソニック」や、頭に装着することで、振動と光が音の特徴を感知できるヘアピンのようなかたちの「Ontenna」。そして、抱きかかえることで音楽を視覚と振動で感じられる球体状の「SOUND HUG」という3種のデバイス。

 来場者の膝の上に抱きかかえられ、ドヴォルザークの「スラブ舞曲第1番」やブラームスの「ハンガリー舞曲第1番」といった楽曲の旋律に合わせ発光、振動する「SOUND HUG」は、会場でもひときわ強い存在感を放っていた。

「SOUND HUG」を体験する鑑賞者 撮影=山口敦

 またこうした装着型デバイスに加え、舞台上にも様々なしかけが登場。ステージ中央では、ビジュアルデザインスタジオ「WOW」が手がけたイメージが、楽曲にあわせて姿かたちを変え続ける様子が映し出される。リアルタイムに生成されるこのイメージは、落合が書き起こした映像装置のスコア(楽譜)がベースとなっている。

 落合はなぜスコア(楽譜)をつくったのか。それは、この音楽会においては映像装置も楽器奏者であり、映像も音も、並列の関係でオーケストラとして再構築される。つまり、音と映像をとおしてオーケストラという編成をトランスフォーム(変態)させることを目指しているからだという。​

中央に見えるのがWOWによる映像 撮影=山口敦
ステージ上の様子 撮影=山口敦

 「鑑賞者にも、より能動的にオーケストラに参加してほしい」とプレトークで語った落合。2部のラヴェル「ボレロ」の開始前には、ロビーと客席通路にて、フラメンコダンサーによるサプライズ演奏や、来場者全員が膝拍子で「ボレロ」のメロディを再現するワークショップも行われた。

フラメンコダンサーが「ボレロ」のリズムを実演 撮影=山口敦
ワークショップで自ら指揮棒を振る落合陽一 撮影=山口敦

 こうしたユニークなワークショッププログラムは、約16分におよぶ「ボレロ」を身体全体で楽しむための準備体操と言えるだろう。

 本番直前まで細かな調整が繰り返されたという「変態する音楽会」。指揮者の海老原光は「今回は、映像がオーケストラの一員だったので、その場で映像を感じることを心がけた。リハーサルを重ねていくなかで映像が変わっていくことに大きな刺激を受けました」と話す。そしてその映像をディレクションしたWOWの近藤樹は、「公演を終えて、ようやくオーケストラの一員になれたという実感がわきました」と感慨深く振り返った。

アフタートークの様子。(手前から)近藤樹、落合陽一、海老原光 撮影=山口敦

​ そして落合は「音楽を聴き、聴覚から受けるイメージをどのようにコンセンサスをとり映像化するかということに注意を払った」と話し、「今後は映像をより多様に配置していきたい。そして日が沈む砂浜、洞窟など、ふだんと異なるシチュエーションでのオーケストラ体験をしてみたい」と今後の展望を明かした。

「落合陽一×日本フィル プロジェクトVol.2《変態する音楽会》」の様子 撮影=山口敦

​ 音を多様に感知するためのデバイスの実装、ワークショップなどをとおして、オーケストラの総合体験が実現された「変態する音楽会」。

 「この体験が、コンサートホールに足を運ぶきっかけになることを期待します」と話す落合の姿からは、オーケストラの門戸を広げたいという意思と、「体験」への強い信頼が感じられた。

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