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NEWS / REPORT - 2018.5.30

油彩画や大型彫刻から貨幣まで。「肖像芸術」の歴史と表現を紐解く「ルーヴル美術館展」が開幕

東京・六本木の国立新美術館で「ルーヴル美術館展 肖像芸術―人は人をどう表現してきたか」が開幕した。27年ぶりの来日となる16世紀ヴェネチアの巨匠ヴェロネーゼによる《美しきナー二》をはじめ、ナポレオンやマリー・アントワネットといった時の権力者たちの肖像画や彫刻など、様々な「肖像」がルーヴル美術館の全8部門から集結した本展。その見どころをお届けする。

展示風景より、右からジャック=ルイ・ダヴィッドと工房《マラーの死》(1794頃)、アンリ・ド・トリケティ《フランス王太子、オルレアン公フェルディナン=フィリップ・ド・ブルボン=オルレアン(1810-1842)の墓碑肖像》(1843-44頃)

 ルーヴル美術館の所蔵品のなかでも、古代から19世紀までの「肖像芸術」に焦点をあてた展覧会「ルーヴル美術館展 肖像芸術―人は人をどう表現してきたか」が東京・六本木の国立新美術館で開幕した。本展は、ルーヴル美術館の全8部門から選りすぐられた約110点の作品を通して、「肖像」の社会的役割や表現上の様々な特質を、全3章の構成で浮き彫りにするという内容だ。

展示風景より。手前はフランリェスコ・マリア・スキアッフィーノ《リシュリュー公爵ルイ・フランソワ・アルマン・デュ・プレシ(1696-1788)》(1748)

 プロローグを飾る、肖像の起源である古代エジプトのマスクに迎え入れられると、「記憶する」という肖像のもっとも古い役割に迫る第1章「記憶のための肖像」が始まる。シリアのパルミア出土の《女性の頭部》(150-250)や、エデッサ(現トルコ、ウルファ)で出土された《葬礼モザイクの3つの断片》(2世紀末-3世紀)といった古代の作品から、19世紀に制作されたアンリ・ド・トリケティ《フランス王太子、オルレアン公フェルディナン=フィリップ・ド・ブルボン=オルレアン(1810-1842)の墓碑肖像》(1843-44頃)などの彫刻作品が並ぶ。

展示風景より《棺に由来するマスク》(紀元前1391-53)

 この章で注目したいのが、ジャック=ルイ・ダヴィッドと工房による油彩画《マラーの死》(1794頃)だ。本作に描かれているのは、フランス革命の重要人物であるジャン=ポール・マラー。マラーが刺殺された翌日に、ダヴィッドが依頼を受けて制作したという《マラーの死》は評判を呼び、ダヴィッドの監督のもと数点のレプリカが制作されることとなった。本作はそのうちの一点だ。黒く塗りつぶされた背景やその構成、ダヴィッドが影響を受けたカラヴァッジョの《キリストの埋葬》(ヴァチカン美術館蔵)から取り入れられたという生々しく腕を垂れたポーズなど、その最期がドラマチックに描き出されている。

展示風景より、右からジャック=ルイ・ダヴィッドと工房《マラーの死》(1794頃)、アンリ・ド・トリケティ《フランス王太子、オルレアン公フェルディナン=フィリップ・ド・ブルボン=オルレアン(1810-1842)の墓碑肖像》(1843-44頃)

 続く第2章「権力の顔」では、肖像芸術が担ってきた「権力の顕示」にフォーカス。とくに目を引くのはナポレオンの肖像の数々だ。油彩や彫刻で、時の権力者の堂々たる姿からその最期までが表現されている。

展示風景より。右からアントワーヌ=ジャン・グロ《アルコレ橋のボナパルト(1796年11月17日)》(1796)、アンヌ=ルイ・ジロデ・ド・ルシー=トリオゾン(1767-1824)の工房《戴冠式の正装のナポレオン1世の肖像》(1812以降)
展示風景より、クロード・ラメ《戴冠式の正装のナポレオン1世》(1813)

 ほかにもルイ14性をはじめとする各国の栄華を誇った王やマリー・アントワネットらの歴史を彩った人々の肖像作品を楽しむことができる。

展示風景より、中央がイアサント・リゴー(1659-1743)の工房《聖別式の正装のルイ14世(1638-1715)》(1702-10頃)

 また、本展では「幕間劇」と題された2つの展示室も見逃せない。ここには硬貨や宝飾品などの小さな作品が並ぶ。豪華な意匠がほどこされた嗅ぎたばこ入れなどは、ぜひじっくりとその細部まで堪能してほしい。

展示風景より、セーヴル王立磁器製作所《国王の嗅ぎタバコ入れの小箱》(1819-20)

 そして第3章「コードとモード」では、王侯貴族や高位聖職者のみが肖像画を制作できた時代から変化し、描かれる対象が商人や銀行家、あるいはさらに下の階層の人々と、裾野が広がったルネサンス以降の作品を展示。古代から伝わってきた肖像表現の決まった表現方法(コード)を踏襲しながらも、新たな表現が各時代・各地で流行(モード)した、その多様性を見ることができる。

 

 この章では27年ぶりの来日となる《美しきニーナ》に注目したい。16世紀後半のヴェネツィアの巨匠であるヴェロネーゼによる本作。ルーヴル美術館では通常、ガラスケースに囲われているが、今回の展示では直接作品を鑑賞できる。瞳や頬や、そしてドレスなどに見られる質感描写の巧みさをじっくりと見てほしい。

展示風景より、ヴェロネーゼ(本名パオロ・カリアーリ)《女性の肖像》(通称《美しきナー二》)(1560頃)

 本展ではエピローグも気を抜かず鑑賞したい。このパートを飾るのは、2017年に上野・国立西洋美術館で行われた展覧会も記憶に新しい16世紀後半の画家、ジュゼッペ・アルチンボルドだからだ。展示されているのは、連作「四季」のうち2点である《春》と《秋》。これらは、時の神聖ローマ皇帝へと献上されたまさに異色の肖像画だ。アルチンボルドを「奇想の画家」たらしめ、後世にまで影響を与えることとなったこれらを堪能して会場を後にしたい。

展示風景より、左からジョゼッペ・アルチンボルド《春》(1573)、《秋》(1573)

 様々な時代・地域の肖像芸術と出会える本展では、肖像芸術がその時代ごとに担ってきた社会的役割や表現上の特質を読み解くことができる。隣り合う作品をじっくり見比べ、その表現の違いを楽しんでみてはいかがだろうか。

 なお、本展は2018年9月22日から19年1月14日の会期で大阪市立美術館へ巡回する。