今日マチ子の展覧会が伊勢で開催中。6つの展示会場周辺で「聖地巡礼」も

今日マチ子のイラストを、伊勢の街を観光しながら楽しめる展覧会「わたしの#stayhome日記2020-2023-伊勢訪問記-」展が、外宮参道ギャラリーを起点とした6会場で開催されている。会期は2月9日まで。

文=菊地七海 撮影=Kiara Iizuka

外宮参道ギャラリーでの展示風景 撮影=Kiara Iizuka

 「ぎょうざの美鈴」の店前で席があくのを待っている男女。シャッターが降りた「宮町名店街」の路地に、チョークで落書きをしている小学生2人。どの人物も皆、白く清潔そうなマスクで顔の半分を覆っている──。

 いずれも、現在、伊勢市駅からほど近い外宮参道ギャラリーに展示されている今日マチ子のイラストだ。コロナ禍の2020年11月、伊勢市を散策しながら見つけた光景をもとに描いたというその作品の数々には、今日の想像力のエッセンスが散りばめられている。

外宮参道ギャラリーでの展示風景 撮影=Kiara Iizuka

伊勢への「恩返し」

 未曾有の感染症が猛威をふるい始めた当時、誰もが少なからず不安を抱き、鬱々とするなか、今日自身もまた、そのひとりとして塞ぎ込む日々を送っていた。そうした状況を大きく変えたのが、伊勢市で過ごした1週間の旅だった。大きな打撃を受けた観光業の復興のため、市が実施した「クリエイターズ・ワーケーション促進事業」に応募し、招聘されたのだ。

「日常を離れた旅の喜びや、見知らぬ土地を訪問する高揚感。そして、伊勢という土地の豊かさに触れた。地元の人々や、いろいろなジャンルの作家さんと会って話ができたのも刺激になった。東京から離れた1週間は、その時間以上に自分の心を救ってくれた」──「わたしの#stayhome日記2020-2023-伊勢訪問記-」展 「開催の言葉」より一部抜粋

 同ワーケーションには、今日のような漫画家やアーティスト、音楽家、ライター、写真家や落語家など、多種多様なクリエイター約90組が参加し、2020年10月から23年3月までの期間中、各々が都合に合わせて最長14日間伊勢市内に滞在した。ワーク+バケーションの「ワーケーション」を冠する通り、制作活動や仕事のみならず、観光や休息といった時間をそれぞれが思い思いに過ごす。舞台女優の青柳いづみ、編集者の金城小百合とともに参加した今日は、カメラを片手にひたすら歩いた。そして漫画やイラストの素材にすべく、膨大な量の写真を撮った。

外宮参道ギャラリーでの展示風景 撮影=Kiara Iizuka

 コロナ禍に突入してから、「#stayhome」というハッシュタグ付きでSNSに投稿し続けていた作品群に、こうして伊勢の情景が加わった。2021年5月、一連の作品を1冊の本『Distance わたしの#stayhome日記』(rn press)にして上梓。その後今日は、様々な規制が緩やかになった23年に、再び伊勢を訪れた。かつての活気を取り戻しつつある伊勢の「いま」を描き、これまでの作品とともに展示する。今展は、今日から伊勢への「恩返し」なのだという。

周遊マップとともに「聖地巡礼」

外宮参道ギャラリーでの展示風景 撮影=Kiara Iizuka

 メイン会場である外宮参道ギャラリーでは、2度の滞在で描いた伊勢の情景が時系列で並び、その対面の壁では、「コロナ禍で変わりゆく街と人の記録」として、今日が2020年から23年までにSNSに投稿してきた作品を一挙に紹介。ここでも同じく時系列に並べられた作品を順にたどっていくと、五輪を控えた東京都心や、日常が営まれている何気ない風景のなかに描かれた人々の顔から、少しずつマスクが外されていくのがわかる。

 今展は外宮参道ギャラリーを起点とし、ほかにも市内の5ヶ所にサテライト会場を設定。それぞれ今日が滞在中に巡ったエリア付近に点在しているため、会場をまわりながら、イラストに描かれた場所を散策することができる。各会場ではそれらを記した周遊マップも配布されており、いわゆる「聖地巡礼」を楽しむことができるという仕組みだ。

各展示会場で配布されている、今展の周遊マップ

 ここからは、サテライト会場のうち、主要の3ヶ所をレポートする。

伊勢市駅手荷物預かり所

伊勢市駅手荷物預かり所。貸し出し可能な紅白の自転車が行儀良く並ぶ 撮影=編集部

 メイン会場からもっとも近いサテライト会場が、この伊勢市駅手荷物預かり所だ。駅に到着してすぐに荷物を預けられるだけでなく、宿泊先までの配送、レンタサイクルの貸し出しも行う。2階部分が休憩スペースになっており、ここに今日の作品が展示されていた。

伊勢市駅手荷物預かり所での展示風景 撮影=Kiara Iizuka

伊勢河崎商人館

伊勢河崎商人館 撮影=Kiara Iizuka
勢田川の対岸から眺める伊勢河崎商人館(右3軒) 撮影=Kiara Iizuka

 続いては、勢田川沿いに位置し、問屋街として発展した河崎エリアに移動。そこで一際歴史を感じさせる建物が、伊勢河崎商人館だ。もともとは江戸時代に創業し、平成11年まで営業した酒問屋「小川酒店」で、国の登録有形文化財である建物を保存すべく、現在は文化施設として見学することができる。

伊勢河崎商人館での展示風景 撮影=Kiara Iizuka

 ここでは、河崎の和具屋と古本屋を描いた作品が展示されていた。商人館のひんやりとした空気や、時を重ねた日本の建築特有の懐かしい匂いと題材とが相まって、事前にスマートフォン越しに見た作品とは、言わずもがな、まったく違って見えた。

 賓日館 

賓日館 撮影=Kiara Iizuka
賓日館 撮影=Kiara Iizuka

 河崎からしばし車で移動し、二見浦へ。続いての会場は、二見浦を眼前に望む国指定の重要文化財、賓日館(ひんじつかん)だ。明治20年、伊勢神宮を参拝する皇室などの要人の保養所として建設された。同館もまた、長い歴史を経て、現在は資料館として開館している。

賓日館での展示風景 撮影=Kiara Iizuka

 今日の作品を見ることができるのは、玄関を入ってすぐのスペース。まさに「大きなのっぽの古時計」とでも言うべき時計の横に、同館の内部をモチーフにした作品と、同館から歩いてすぐの二見興玉神社周辺の情景を切り取った作品が展示されていた。 

 このほか、サテライト会場は、二見浦エリアと宇治浦田エリアの観光案内所にも。いずれも作品数こそ1点のみではあるが、今日がたどった軌跡をなぞるチェックポイントのような場所となっている。

 両案内所付近では、人懐こい猫が気持ちよさそうに歩きまわっていたり、はたまた等身大サイズのCGキャラクターを映し出した大きな案内端末が存在感を放っていたりと、思わず写真に収めたくなるものに、不思議と目が止まった。

 もしかするとそれは、何気ない日常の光景を愛おしみながら、伊勢の街を巡った今日の作品に触れたからかもしれない。

編集部

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