念願の初来日。クリスタル・パイト率いるKIDD PIVOTの『REVISOR / 検察官』が愛知と神奈川で上演へ

トラウマや依存、衝突、自我、死といった複雑なテーマを軸に、ダンスと演劇を両立させた作品によって国際的に高く評価されているクリスタル・パイト率いるカナダ・バンクーバーのダンスカンパニー「KIDD PIVOT」。その初来日となる『REVISOR / 検察官』が、愛知県芸術劇場と神奈川県民ホールで上演される。

(C)Michael Slobodian

 2017年にダンス界のアカデミー賞と称されるブノワ賞(振付家部門)を、19年にはイギリス『ザ・ガーディアン』紙の「21世紀のベストダンス」でベスト1などを受賞している振付家・演出家のクリスタル・パイト。そのパイト率いるカナダ・バンクーバーのダンスカンパニー「KIDD PIVOT(キッドピボット)」が、念願の初来日を果たす。上演は愛知県芸術劇場(5月19日)と神奈川県民ホール(5月27日・28日)。

 KIDD PIVOTは2002年設立のカンパニー。トラウマや依存、衝突、自我、死といった複雑なテーマを軸に、ダンスと演劇を両立させた作品を発表してきた。大胆で独創的な手法は高く評価され、国際的な賞も多数受賞している。所属ダンサーには、日本人では元NDT1の鳴海令那がおり、パイトのダンスを体現できる優れたダンサーとしてこれまでほぼすべての作品に出演している。同カンパニーは当初、2022年に来日予定だったものの、コロナ禍によってそのツアーが中止・延期となっていた。

 1年越しの上演となる『REVISOR』(リヴァイザー/邦題:検察官)は、2022年にイギリス演劇界でもっとも権威ある賞と言われる「ローレンス・オリヴィエ賞」で最優秀ダンス作品賞を受賞するなど、いま世界でもっとも注目されている作品のひとつだ。

(C)Michael Slobodian

 本公演の原作となっている「検察官」は、ウクライナ出身の劇作家ニコライ・ゴーゴリにより1835年にロシア語で書かれ、翌年に初演された代表的戯曲。腐敗政治がはびこるロシアのある地方都市を舞台とした、検察官と人違いをめぐる騒動を描いた当時の役人への風刺を内容とした茶番劇だ。前半の演劇的なシーンと後半の抽象的なダンスが展開されるシーンでその様相は大きく変わり、言葉と身体の密接なつながりを通して、観客は現代にも通じる人間社会やそこに関わる人々の葛藤や滑稽さ、また堕落を目の当たりにするだろう。

 本作では、鳴海令那やエラ・ホチルドを含む8名のダンサーがあらかじめ録音されたジョナソン・ヤングの脚本にあわせてダンスを繰り広げる。

(C)Michael Slobodian

 今回の上演にあたり、演出家で世田谷パブリックシアター芸術監督の白井晃と劇作家・演出家・俳優でKAAT神奈川芸術劇場芸術監督の長塚圭史がそれぞれコメントを寄せている。日本初の上演が待ち遠しい。

言葉に振り付けられたダンス、身体が強化された演劇。その捉え方はさまざまだが、むしろカテゴリー分けなど意味がない。舞台芸術の可能性を追求したパイト氏の挑戦は、ダンスをも演劇をも超えていこうとする。本作においては、演劇の持つ意味を強靭な肉体が強化し、見い出せなかった作品の深層にまで入り込む。まるで、高性能のカメラが闇の光を捉えるように、暗闇の中に埋もれた本質を残酷なまでに照らし出し、私たちの前に顕にするのだ。(白井晃)
録音された台詞と正確にシンクロする唇、日常的な動作から魔法のように拡張される圧倒的な身体に忽ち心を奪われる。今作『Revisor』で舞踊と演劇は強烈な融合を遂げている。古典的戯曲の鮮やかな脚色と、ユーモアたっぷりの魅惑のパフォーマーたちによってハイブリッドなコメディに仕立て上げただけでなく、いつの間にか戯曲から抜け出して、言葉とムーブメントを解剖する思考世界に滑り落ち、異形と遭遇する場面には背筋が凍る。こんなのありなの?
型破り且つ極上のエンターテインメントがここにある。(長塚圭史) 

編集部

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