市内各地にパブリックアートが点在する神戸市で、新たなかたちのパブリック・アートを生み出し、観光誘客につなげる「KOBE Re:Public Art Project」がスタートを切った。メインキュレーターを森山未來、キュレーターを山峰潤也が務めるプロジェクトだ。
近年、コロナ禍によって観光業が大きなダメージを受けるなか、行動制限の緩和やワクチン接種などで状況は好転しつつある。そのなかで重要な要素となるのがアートだ。神戸市は様々な美術館が位置し、芸術祭「六甲ミーツ・アート」などで知られている。しかし、それそれが「点」としての存在、あるいは「期間限定」での存在であることから、面的なつながりが弱いことが課題だった。
そうした課題を解決し、観光誘客を促進するためのプロジェクトが、この「KOBE Re:Public Art Project」だ。同プロジェクトでは、ポストコロナを見据えた新たな観光につなげるため、神戸の多様性を活かし、神戸の「モノ・コト・バショ」をメタ資源ととらえ、そこに新たな価値を生み出すパブリック・アート事業を推進。アートを面的に展開することで、神戸における交流人口増加を狙う。
これまでのパブリック・アート(やその公募)では、モニュメントや記念碑、彫像や彫刻といった物理作品の設置が主なものだった。しかしながらこのプロジェクトでは、そうした物理作品にこだわらない、「既成概念にとらわれない、神戸らしい新しいかたち」のパブリック・アートを創出するという。
プロジェクトは、大きく「リサーチ」と「リ:パブリック」の2フェーズに分かれる。「リサーチ」は、神戸市内5エリアに設けられたアーティスト・イン・レジデンスに一定期間滞在し、プロジェクトテーマ「人新世に吹く風」にもとづいて散策活動(リサーチ)を行いながら、新たな神戸の魅力(周遊観光資源)を発掘するというもの。いっぽうの「リ:パブリック」は、リサーチにより生まれたアイデアの一部を作品として具現化し、さらにその具現化されたアート、リサーチ結果とそのプロセスを展示・保存・共有するというかたちで、神戸の街に再配置していくという流れだ。
参加作家は公募によって選出されるほか、キュレーターによって選出される。現在、遠藤薫、太田光海、久保田沙耶、Kenji “Noiz” Nakamura、小金沢健人、持田敦子の6組が第一弾参加作家として明らかにされている。
また、プロジェクトにて制作したアートやリサーチ結果のアーカイヴは、エイベックスの音声ARアプリ「SARF」を活用したコンテンツとしても展開し、神戸市内における周遊観光の促進を図るという。
メインキュレーターを務める森山未來はこの事業について、「神戸という場所をどういう存在として考えて生きていくのか。神戸という“風”を受けたアーティストが、何を得るのか、何を見るのか、どのようにみなさんと共有するかを、アーティスト・イン・レジデンスという仕組みを使ってやりたい」としつつ、単年度ではなく長期的に継続する必要性を訴える。
またキュレーターとして関わる山峰潤也は、現代がモノをつくることよりも「コトをつくって、出来事や価値観との出会いが重要視される時代」であるとし、「様々な個々の物語がパブリックに開かれ、他者の物語に出会っていけるようなフレームワークを、“リ:パブリックアート”としてスタートしていきます。まったく新しいかたちで個と個がその場所、あるいはインターネット上のツールを通して出会っていける試みを目指していきます」と意気込む。
全国各地にパブリック・アートは存在するが、このように行政発でパブリック・アートのかたちを更新しようとする試みは珍しい。すでに参加アーティストの公募は始まっている。気概のあるアーティストは、このまたとない機会にぜひ応募してみてほしい。