常玉(サンユー)はなぜ馬を描いたのか? 《Chevaus(群馬)》が北京のオークションで競売へ

6月5日、北京のオークションハウス・華藝國際(ホリーズ・オークション)が近代・現代美術イブニングセールを開催する。同オークションでハイライトとして出品されるのが、中華系フランス人の画家・常玉(サンユー)の絵画《Chevaus(群馬)》(1932)だ。サンユーが馬を描いた背景や同作の魅力を紹介する。

サンユー Chevaus 1932

 6月2日〜5日、北京のオークションハウス・華藝國際(ホリーズ・オークション)がスプリングセールを開催し、中国絵画・書道、近代・現代美術、中国陶磁器・美術品、そして古典籍や宝飾品などが競売にかけられる。5日に開催される近代・現代美術のイブニングセールでは、ハイライトとして中華系フランス人の画家・常玉(サンユー)の絵画《Chevaus(群馬)》(1932)が出品され、注目を集めている。

 「中国のマチス」とも称されるサンユーは1895年中国四川省南充市生まれ。1920年にフランスへと留学し、66年にガス中毒でこの世を去るまでほとんどの時間をパリで過ごした。2019年のクリスティーズ香港のセールで、その5人の裸婦を描いた《Five Nudes》は3億300万香港ドル(約42億円)で落札され、中華系の近代画家の作品としてはもっとも高額なもののひとつとなった。

 今回出品される《Chevaus》は、1932年にパリで開催された第43回アンデパンダン展でも展示されたもの。明るい黄金色の野原で戯れる7頭の馬を描いた本作は、サンユーにとって初めてフランスの雑誌に掲載された作品となる。

サンユーの《Chevaus》を初めて掲載したフランスの雑誌『ヴュ』

 裸婦、花、動物は、サンユーの作品の核となる3つの画題だ。サンユーが好きな花が「菊」ならば、「馬」はサンユーが動物を描いた作品のなかでもっとも愛した題材と言っても過言ではない。その動物を題材にした84点の油彩画のうち、34点が馬の作品であり、40年近いキャリアのなかでは、「馬」という画題に対する芸術的探求が継続的に行われていた。

 サンユーの父は、故郷の中国・南充で馬の絵を描く有名な画家だった。馬のイメージは、サンユーの幼少期の記憶や美的センスの根源に深く刻まれており、サンユーにとって特別な存在である馬は、その心境を表すもの、あるいは故人を偲ぶものとして様々な形式で絵画に登場している。

 馬を題材にした34点の作品のうち、2頭の馬をペアで描いたものがほとんどで、馬を集団で描いたものは6点しか存在しない。今回の出品作には、オレンジがかった赤と黄色を背景に楽しげな7頭の馬や、陽光に照らされた黄金色の野原や湖、砂州などが抽象的に描かれている。

サンユー Chevaus 1932(一部)

 サンユーはこの作品で、西洋近代美術における幾何学性と色彩の純粋性を追求する姿勢を見せるいっぽうで、中国伝統絵画における「空の空間」という空間概念、つまり色の重ね合わせによる想像力豊かな空間もつくりだしている。また、中国の伝統的な絵画や書道に登場する馬が四方八方に向かって疾走するのに対し、サンユーの馬は優雅な姿で広大な荒野を彷徨っており、その姿は、作家自身の個性も映しだしている。

 なお、この作品が出品される5日のイブニングセールには、藤田嗣治や趙無極(ザオ・ウーキー)、ダミアン・ハースト、アニッシュ・カプーアなどの作品も出品。加えて、同オークションの中国絵画・書道部門とアンティーク部門では、「大美」(Grand Essence)と題した一連の特別企画オークションを4日〜5日に開催し、中国の画家による時代を超えた絵画や、書家による重要な作品、そして磁器、翡翠などを出品する。

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編集部

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