東京・八丁堀の「FUMA Contemporary Tokyo|BUNKYO ART」で、木彫作家・金巻芳俊の個展「金巻芳俊展」が開催されている。会期は前期が2月6日〜2月17日、後期が2月20日〜3月6日。
金巻は1972年千葉県生まれ。99年に多摩美術大学美術学部彫刻学科を卒業し、2012年には損保ジャパン美術財団選抜奨励展にて新作秀作賞を受賞した。国内外における作品の人気の上昇に伴い、現在では日本のみならず、台湾、中国、香港、アメリカ、フランス、ドイツ、英国などから作品購入のオファーが絶えない。
金巻の作品コンセプトの核となっているのは「アンビバレンス(ambivalence)」だ。相反矛盾する心理が両立し、相反する態度が同居することを示すこの言葉を、金巻は独自の世界で定義し直し、木彫作品として表現する。このコンセプトが生まれたのは、美術大学における西洋美術的な教育で重視されるマッス(量塊)やムーブマン(動的表現)に基づくフィジカルな表現だけでは成立しない、よりメンタルに寄った表現を行うにはどうしたらよいだろうか、という煩悶からだ。
今回の金巻の展覧会は、会期を前期と後期に分け、それぞれ大きく異なる内容の展示を予定している。
前期では、おもに金巻作品の「これから」のビジョンを提示する。昨年新たなプロジェクトとしてスタートし、数時間で完売したフィギュア作品と版画作品の第2弾を紹介。なかでも、空間が割れて万華鏡のような様相をみせる版画作品では、「人も景色も刹那に移ろいゆく」様相を、これまでとは異質の造形で表現するためのアプローチになるという。二次元では表現可能であっても三次元では難しいものをどう表現するのか、金巻が日々葛藤するなかで生まれた「彫刻なのに彫刻的でない表現」の未来形だ。
後期は、これまでの集大成ともいうべき「カプリス」シリーズの彫刻を中心とした、木彫作品の展示となる。
「カプリス」シリーズは、移ろう感情の在り様とその豊かさを表現する作品シリーズだ。十一面観音や阿修羅像にも通じる造形表現は、日本の木彫史を継承し、現代的に発展させたものと評されている。2018年の「めがねと旅する美術展」(青森県立美術館、静岡県立美術館、島根県立石見美術館)や、2019年の「美少女の美術展」(北師美術館、台北)において大きな話題を呼び、金巻の代名詞ともなっている。
今回、金巻は「カプリス」シリーズを等身大の作品とすることにこだわった。人がいる気配があるのに人ではない、そんな体感によって、人間関係の距離感を誤認識してしまうような作品を制作。人と人の距離感を考え直さざるをえない現状を反映した。同時に、ひとりの人間のなかの「多様性」が内在する「一人称」の表現であった「アンビバレンス」が、人の距離感や関係性の問題をはらんだ「他人称」の表現へと変容していく予感を、作品に込めた。
「FUMA Contemporary Tokyo|BUNKYO ART」での4年ぶりとなる金巻の個展。そのキャリアにおいて重要なマイルストーンとなりそうな同展を、ぜひ訪れてほしい。