この秋、訪れたいアートスポット。歩く芸術祭「MIND TRAIL 奥大和 心のなかの美術館」

奈良県の南部・東部の一帯である「奥大和」には、内なる声に耳を澄まし、歩く芸術祭「MIND TRAIL 奥大和 心のなかの美術館」が誕生。会期は10月3日〜11月15日。

文=佐藤恵美

奈良県吉野町の会場 撮影=西岡潔

 奈良県の南部・東部の一帯は「奥大和」と呼ばれる。19の市町村から構成される奥大和は、「紀伊山地の霊場と参詣道」として世界遺産にも登録された地を有し、山々や高原など自然豊かな土地で、産業や文化が発展してきた。ここで初めて大規模な芸術祭が開催される「TRAIL」という名の通り、「歩く」芸術祭だ。数通りのコースが用意されているが、最長コースは5時間。山道や川沿い、集落などを歩く道すがら、作品と出合っていく。

 この新たな芸術祭の特徴のひとつは、コロナ禍において計画されたことだ。事業を推進する奈良県が、普段は意識しない自然や人々との関わりによって関係人口を創出するために、アートに活路を見出した。そこで、2019年に東京湾に浮かぶ猿島で「Sense Island 感覚の島 暗闇の美術島」を企画したライゾマティクス・アーキテクチャーの齋藤精一に声がかかった。以前から奥大和をたびたび訪れるなど縁のあった齋藤は、コロナ禍で感じた自然環境や命について考えることの重要性を軸に、本芸術祭を企画。美術をベースに活動する中﨑透や木村充伯、サウンドアーティストの細井美裕やニシジマ・アツシ、デザインワークを主とする井口皓太や毛原大樹、建築家の佐野文彦など、多様なアーティストが集結した。

環境・状況をコンテクスト化し参加型の作品を発表する菊池宏子の「SENSE ISLAND」(2019)での《地球交響楽団》
撮影=忽那光一郎
「人と動物の関係」をテーマに制作をする木村充伯による《ここに猿はいない》(2018)

 齋藤は、本芸術祭の見どころについて次のように語っている。「コロナを経験し、いま社会全体が『わからない』という状況が続いています。先が見えない時代のなか、『いまを考える』ことがますます重要になってきているのではないでしょうか。今回の芸術祭では、都市から離れた場所で作品を鑑賞しながら『歩く』とともに『考える』ことを一緒に楽しんでもらえたらと思っています。奥大和は、どこかで見たことがある風景かもしれません。そこで出合う風景や匂い、音、そして作家の視点を通して、いつかの記憶が掘り起こされ、意識や思考が開いていく体験になると思います」。

 オンラインの可能性は急速に拡大しているとはいえ、フィジカルな体験はやはり美術には欠かせない。奥大和の広大な自然のなかで、アートを介して普段は意識しないことに気づき、自身を見つめ直す、特別な時間となるだろう。

編み物をコミュニケーションメディアとして活動する、力石咲による「茨城県北芸術祭」(2016)での《ニット・インベーダー in 常陸多賀》 撮影=木奥惠三 © KENPOKU ART 2016 茨城県北芸術祭

編集部

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