異文化へのアーティストの眼差しから、幻想やズレをとらえつつ、日本とフランスのつながりの本質へ迫ろうとする画期的な展覧会が開かれる。
19世紀後半から20世紀初頭にかけて、日本の浮世絵や工芸品は、モネやゴッホなどの芸術家たちにインスピレーションを与えた。同じ頃、開国を機に欧化政策を進める日本では、多くの画学生がフランスへ留学し、また大正期には、雑誌や画集を通してフランスへの情熱を募らせる若者が大勢いた。このように新しい時代の美を模索するうえで、お互いに不可欠な存在であった日本とフランス。本展は2つの国の芸術が織りなす「美の往還」を浮き彫りにして検証する試みだ。
展示のプロローグは現代作家の荒木悠の映像作品からスタートし、印象派をはじめとする近代絵画群に、森村泰昌、山口晃、ドミニク・ゴンザレス=フォルステルといった現代の作品が大胆に溶け込むユニークな構成にも注目したい。
さらに本展は、歴史的発見にも恵まれた。黒田清輝の作品《野辺》は、1900年のパリ万博で黒田が見た師ラファエル・コランの《眠り》に大きなヒントを得たとされているが、コランの同作は長らく所在不明だった。ところが近年、パリのある財団内で発見されたのである。120年の時を経て、世界で初めて2つの作品が並んで展示される。
実際に作品を見比べてみよう。何に憧れ、何を表現しようとしたのか。アーティストの想像力の発露に触れる、またとない機会になりそうだ。
担当学芸員の山塙菜未は、同展のみどころを次のように語る。「私たちが異国や異文化と出会うとき、驚きや感動とともに、抱いていたイメージとの違いに戸惑うことがあります。本展では関連作品を並べて展示することで、アーティストたちの『美の往還』を直接体感することを目指しました。ギャップはギャップのままユーモアを持って受け止め、その意味を考えてみる。いつの時代もイマジネーションを発揮して、お互いを発見し続けることの大切さを痛感します。世界が共通する課題と向き合ういまだからこそ、異文化交流の意義と魅力を感じていただければと思います」。