メディア・アートを中心に最先端のテクノロジー・カルチャーを紹介する「Media Ambition Tokyo」(以下、MAT)は、今年で6回目を迎える。作品や技術の展示、識者やアーティストによるトークイベント、そしてワークショップを通して、芸術表現や生活、人間の行動にテクノロジーがどのような関与を働きかけるのかが、提示されてきた。
東京各所で開催されているアートイベントの中で、回を重ねるごとにMATはその独自性を洗練させ、今回でひとつの確立を見せたようにも感じられた。大都市・東京におけるMATの特徴に迫りたい。
六本木ヒルズの52階に位置する東京シティビューには、多くの観光客が訪れる。ぐるりとビルを囲むガラス面からは東京が一望でき、昼間は躍動的な街並みを、夜は幻想的な夜景を見ることができる。その万人に好まれる観光資源は必然的に、若いカップルやビジネスマン、(欧米系やアジア、中華系などの多様な)外国人観光客ら日常的に多数集客しており、ホワイトキューブとは性格が多分に異なる。
この東京シティビューをメイン会場とするMATは、この場所性に合わせてアートへの関心が多様な観光客を包容すべく、来場客と距離の近い作品展示が意識されている。作品の多くはファインアートとしての純粋性や批評性だけでなく、「インスタ映え」し、「インタラクティブ」であり、そして「エンターテインメント」の要素を内包している。デジタル・テクノロジーを巡って近年世の中に頻出するキーワードが、展示で散見されているのだ。
落合陽一の《Morpho Scenery》は、六本木ヒルズ52階からの景色を活用したインスタ映えする作品でありながら、人間の目に映るイメージと実在する物質との間に不協和を生じさせ、その関係性を問うている(スマートフォンのカメラレンズを通すことで、そのズレはさらに複層化するだろう)。また、ライゾマティクスとTOYOTA BOSHOKU CORPORATIONによる《VODY》は、クルマに乗車した人の意識にシートの形状が適合することで、人とクルマの距離を近づけ、人間の身体を拡張する試みだ。メカニカルで大きな造形のまわりに、作品を体験するための待機列(そのなかには外国人観光客も多く見られた)ができていた。
LEXUSは「MAT Partners」(「協賛」「スポンサー」ではなく「Partners」という単語に、MATの企業への向き合いに対する意識が表れていると言えるだろう)として様々な支援や作品上での連携を行なっており、今回でも後藤映則×LEXUSとして《ENERGY #02[with LEXUS LC]》を発表している。
また、脇田玲はダイキン工業テクノロジー・イノベーションセンターとの共同研究により、エアコンから出る空気やハウスダストの流れを可視化した《Visualization of Air Conditioner》を発表した。タッチパネルを通して、室内の環境、温度、湿度など様々な条件を鑑賞者が自由に操作できる、インタラクティブな側面も併せ持っている。「企業は(アーティストにとっての)面白いデータを多く持っている」と語った脇田。企業が抱えるビッグデータを活用し、来場客が体感しやすいかたちで可視化を実現した。
「2020」の機運に乗り、日本の各地でアートイベントが開催されるようになった昨今。そのなかにおいて「東京」という地域が、どのような独自性のあるアートイベントを発信すべきか。多様な人に歩み寄ったMATは、回を重ねながらその答えを提示しようとしているのかもしれない。