バロックの巨匠ルーベンスによる絵画《マルス神としての男(Man as the God Mars)》(1620頃)が、5月にサザビーズ・ニューヨークで開催されるモダン・イヴニング・セールに出品される。予想落札価格は2000万〜3000万ドル(約26億5000万〜39億7600万円)。
この作品は、今年1月にサザビーズ・ニューヨークでバロックの作品10点が合計4960万ドルで落札された、フィッシュ・デビッドソン・コレクションから出品されたもの。2000年に同社のオークションでルーベンスの絵画としては過去最高の価格である約825万ドルで落札され、02年以来は市場に出回ることがなかった。
1600年、23歳のルーベンスはイタリアを訪れ、古典時代の神話、伝説、建築、芸術に魅了された。ローマの彫刻、レリーフ、カメオ、建築物からインスピレーションを受け、そこで見つけた古代の遺物を収集し、生涯を通じてその芸術活動に影響を与え続けた。
同作は、ルーベンスの肖像画において被写体が古典的な装いで描かれた貴重な作品のひとつであり、ニューヨークのメトロポリタン美術館でも数年間展示されていた。作品に描かれた、ローマ神話における戦と農耕の神マルスに扮した男が被った兜は、ルーベンス自身が所有していたものだとされている。
サザビーズ・アメリカズ印象派・近代美術の部門長ジュリアン・ドーズは、同作の出品は「ルーベンスの芸術家としての重要性のみならず、当時としては斬新な革新者だったということを示すもの」だとしつつ、次のようにコメントしている。「彼はほかに類を見ない画家であり、国際的に大きな需要があり、その作品はヨーロッパ中のほかの芸術家に深い影響と永続的な影響を与えた。この壮大な肖像画はあらゆる好みに応え、後世の作品と完璧に調和し、新しいコレクターはルーベンスの不変の現代性を認めないことはないだろう」。
ルーベンスのオークション記録を維持しているのは、2002年のサザビーズ・ロンドンにて約4950万ポンド(当時の為替レートで約93億円)で落札された《幼児虐殺(Massacre of the Innocents)》。今年1月のフィッシュ・デビッドソン・コレクションのセールにて2690万ドル(約34億4300万円)で落札されたルーベンスの《サロメに贈られた洗礼者聖ヨハネの頭部(The Head of Saint John the Baptist presented to Salome)》は、画家のオークションにおける過去3番目の高値を記録している。
なお、今回の《マルス神としての男》は4月12日までサザビーズの東京オフィスで展示されており、ニューヨークでのセールに先立ちロサンゼルス(4月20日〜24日)にも巡回される予定だ。