藤田美術館は、明治時代の実業家・藤田傳三郎と、長男平太郎、 次男徳次郎が蒐集した美術品を展示する目的で、1954年に開館。そのコレクションは、 書画の名品、仏教美術、古代の青銅器、漆器、織物、茶道具など、2000点以上にのぼる日本と中国の美術品を網羅し、国宝9点、重要文化財52点を有するなど、日本でも有数の私立美術館として知られている。
なかでも古書画のうち6点は、乾隆帝(清朝第6代皇帝)が所有したものとして、清代宮廷の書画編纂目録である「石渠宝笈(せっきょほうきゅう)」にも記録されており、旧男爵藤田家が一流の東洋古美術コレクションを保有することを物語っている。
そんなコレクションで構成される今回のオークションで、もっとも注目を集めるのが宋の時代の龍を描く名手・陳容(ちんよう)が13世紀に描いた《六龍図》だ。同作はもともと乾隆帝のコレクションだったものが、古美術商である山中商会を経たのち、藤田美術館に所蔵されたもの。クリスティーズ ジャパンの中国美術アソシエイト・久世雅彦は同作について、「龍は皇帝の象徴。龍は天を表しており、雲や雨や波など、龍のエッセンスを凝縮した巻物に仕立てている点が魅力的。同じ作家で、ボストン美術館には九龍図のものもある。漫然と龍を描いているのではなく、子どもの龍がいたり、岩に隠れた龍がいたりと、コミカルな感じもある。宋時代の絵画技法は三次元的で、現代の名手でも再現するのは難しいところがある」と説明。予想落札価格は120万〜180万ドル(約1.3億〜2億円)だが、これを大きく上回る価格での落札が予測されている。
また、青銅器からも名品が出品されており、紀元前13〜11世紀の《青銅鳳龍文山羊尊》(予想落札価格=600万〜800万ドル、約6.8億〜9億円)や、紀元前12〜11世紀の《青銅儀首饕餮文瓿》(予想落札価格=同)など、いずれもまさに美術館クラスのロットが揃う。
現在の中国美術マーケットについては、全体的に好調ではあるものの、2010年前後のブームからは落ち着きを見せており、「良いものは買うけれど、クオリティの低いものは買わない。目が厳しくなってきている」状態。中国美術は中国本土、香港、台湾のコレクターが蒐集する傾向が強く、「一つひとつがトップクオリティー」の同オークションは注目度が高い。香港で11月末に開催されたプレビューも好感触だったといい、同オークションの日程が、当初のデイセールからより重要視されるイブニングセールへと変更されたことがそれを裏付けている。
同プレビューは12月12日に大阪美術倶楽部でも開催。オークションの収益は、藤田美術館の建て替えを含む、館全体のクオリティー向上を図るために役立てられる。
※陳容《六龍図》は4896万7500ドル(約55.5億円)で落札とクリスティーズが発表。(3月16日追記)