川口隆夫は1996年パフォーマンスグループ「ダムタイプ」に参加、2000年からは並行してソロ活動を始め、多くのパフォーマンス作品を発表するほか、96年から99年まで東京国際レズビアン&ゲイ映画祭のディレクターを務めるなど、多岐にわたる活動を行ってきた。近年は「舞踏」についてのパフォーマンス作品を制作している。
「舞踏」は1959年土方巽の《禁色》から始まった舞踊表現であり、60〜70年代の前衛的な実験を経て、多くの歴史的作品を結実させた。さらにそれらの作品は欧米のダンス界にも衝撃を与え、いまや「Butoh」として世界中に広まっている。近年その「舞踏」のアーカイブ資料を出典とした創作が、現代舞踊振付家たちによって盛んに行われている。
今回上演される川口隆夫の《大野一雄について》は、明治から平成を生きた舞踏家大野一雄の作品を出典に制作された。しかしその方法論は、大野一雄の舞台映像を「完全コピー」するという特異なものとなっている。音響はビデオ収録音を使用し、衣装、照明も当時のオリジナルデザインを踏襲、観客の咳払いからビデオ収録の操作ミスまで再現する。「舞踏」への視点を切り開くとともに、振り付けとは何か、オリジナリティーとは何か、といった舞踊芸術の根本に議論を投げかける作品となっている。
本作品は、2013年8月東京での初演から世界25都市以上でツアーを重ね、2016年9月のニューヨーク、ジャパン・ソサエティー公演では「ベッシー賞2017」のファイナリストにノミネートされた。今回は日本ツアーとして、札幌・神戸・さいたま・高知の4都市で公演を行っている。
なお本公演に伴い、彩の国さいたま芸術劇場では川口隆夫によるワークショップ、大野一雄アーカイヴ映像の上演といった関連イベントが行われるほか、「モダンダンスから舞踏へ」と題し、大野一雄の「舞踏」前夜となるモダンダンス作品《老人と海》のオープンリール音源デジタルリマスターや、ヘミングウェイへ宛てた書簡原稿などの初公開資料も含む特別アーカイブ展示が開催される。