葛飾北斎、喜多川歌麿をはじめとする江戸の浮世絵師たちが、並々ならぬ情熱を注ぎ、絵師・彫師・摺師の才能と高度な技術により生み出されてきた「春画」。そのエロティシズムだけでなく、多彩な表現内容や技巧、その創造性に焦点を当てるドキュメンタリー映画『春の画 SHUNGA』(R18+)が今年11月より全国ロードショーされる。監督は平田潤子。
江戸時代において、春画は「美」「技」において超一級の芸術と呼べる作品が数多く生み出された。しかし、明治維新を迎えるとともに「猥褻画」として警察による取り締まりの対象となり、日本文化から姿を消すこととなった。
本作は、2015年に開催された「春画展」で、出版物や展覧会を通じて春画のアートとして再評価の機運が高まったことを発端とし制作されたもの。様々な性愛のかたちのみならず、春画を通じて、歓喜と興奮、情熱と悲哀、嫉妬、駆け引きといった「人間ドラマ」や、ユーモアを持って描かれる「生命そのもの」の魅力に注目するといった内容だ。
作中映像では、北斎による有名な「蛸と海女」の絵から、歌麿の《歌まくら》、鳥居清長の《袖の巻》、鈴木春信のユーモラスな《風流艶色真似ゑもん》、大名家への嫁入り道具と伝えられる華麗な肉筆巻物、ヨーロッパのコレクター秘蔵の春画幽霊図まで、バラエティーに富んだ傑作の数々が紹介されるとともに、国内外の美術コレクターや浮世絵研究家、美術史家、彫師、画家などへのインタビューで構成される。
さらに、歌川国貞による贅を尽くした源氏物語のパロディー作品《正写相生源氏》の絢爛豪華な「極初摺り」も登場。金・銀などを惜しみなく使い、超絶技巧を駆使した立体的な表現が、美しい映像によって細部まで見ることができるのも嬉しいポイントだ。
平田潤子監督コメント
なぜ日本にはこんなにもエロなアートがあるんだろう?
この圧倒的なクオリティと成熟はなぜ?
そんな好奇心から春画をめぐる旅をはじめました。ご先祖さまたちの性に対する飽くなき探求心に、感心したりあきれたり…でも撮影を通して感じたのは、生そのものの持つ官能性と、美しさでした。
めくるめく春画の世界に描かれた、ちょっとおかしくて愛おしい人間たち。今と変わらぬ彼らの姿を、ぜひのぞき見てください(プレスリリースより抜粋)。
また作中では、春画作品の復刻やデジタル化のプロジェクトも紹介。春画のアニメーションといった新しい表現が取り入れられている点も注目だ。
一時はタブーとして人の目から遠ざけられていた春画。その魅力に様々な角度からスポットを当てることで、いまだ知られていない春画の奥深さに鑑賞者は気づき、没入することができるだろう。
※本稿は8月23日掲載記事の再編集版として、9月12日に更新しました。