上智大学国際教養学部教授で美術評論家連盟の会長も務める美術評論家・林道郎から、10年以上にわたりセクシャルハラスメントとアカデミックハラスメントを受けたとして、元教え子の女性が東京地裁に2200万円の損害賠償を求める訴えを起こしたことがわかった。
原告となったのは、林氏の元教え子で、その後も美術業界で勤務していた女性。訴状は4月30日付であり、現在は双方の弁護士を通じた書面でのやり取りが続いている。
女性は2003年に上智大学入学後、学部2年生の2004年後期から林教授の講義を受けており、大学院進学直前の07年夏のゼミ旅行をきっかけに、妻帯者である林教授から二人きりで学外で会うことを求められだしたと話す。その後、二人の関係は性交類似行為から性交へと進行。段階的に性的な関係を求められるようになったという。一般的に、このように狙った相手の心のドアを少しずつ開けて入り込む手口は「フット・イン・ザ・ドア・テクニック」と呼ばれ、「グルーミング(手なづけ)」と合わせてハラスメントに多く見られる手口だ。
また性的な関係以外だけでなく、アカデミックハラスメントの被害にもあっていたと主張する。女性は林教授のアシスタント業務を学部時代から大学院修了後、そして就職後の30歳前後まで行っていたが、その多くは無償だったという。女性は帰国子女で、関係の後半では英語の論文などについても校正を行っており、2016年に美術評論家連盟が発表した声明文「表現の自由について」の英語版校正を頼まれていたとする。
女性と林氏の関係は2018年春まで、10年以上にわたって継続。女性はその後の2020年、林氏の妻から「不貞行為」で提訴され敗訴している。
女性は「美術手帖」の取材に対し、時間を経たことでセクシャルハラスメントを周囲に話すことができるようになり、「あれは性被害だった」と自覚するようになったという。今回提訴へと踏み切ったのは、「逃げてばかりではなく、戦わなければいけないと思ったんです。こうした被害にあう人が少しでも減ってほしい」という気持ちからだという。女性は現在も自責の念にかられており、心療内科に通うなど投薬治療を続けている。
本件について、上智学院は「本件については個人間のことと認識しておりますので大学としてコメントは控えさせていただきます」とコメント。
また林氏側は訴状に対する答弁書のなかで、「指導教官という立場ではあったが自立した成人同士の自由恋愛をしていたに過ぎない」と主張。しかしながら、教授と学生という明確な上下関係がある以上、それを自由恋愛とすることには無理があるだろう。
林氏側は美術手帖の問い合わせに対しても「私の過去の行動に大きな過ちがあったことは訴訟においても率直に認めております」としながら、「訴訟において相手方から出されている主張は、あまりにも事実とかけ離れた『作られたストーリー』」との姿勢をとっている。
林氏は現在自身のSNSアカウントを閉鎖しており、美術評論家連盟会長の職については辞意を明らかにしている。林氏は美術評論家として美術界で影響力を持つ人物であっただけに、大きな衝撃となることは間違いない。
*一部内容を追記しました