借用作品紛失のアーツ前橋が収蔵品点検のため3ヶ月の休館へ。紛失の経緯や総点検の内容とは?

昨年11月に公表されたアーツ前橋の借用作品紛失。同館はこれを受け、今年4~6月の3ヶ月間、収蔵作品の総点検のために休館することを発表した。現在明らかになっている紛失までの経緯や、調査状況、点検の内容についてまとめた。

アーツ前橋 撮影=木暮伸也

 群馬・前橋のアーツ前橋が、収蔵を視野に入れた借用作品調査の過程で、作品を紛失したことが昨年11月に公表された。同館はこれを受け、今年4~6月の3ヶ月間、作品の総点検のために休館することを発表した。

 紛失が確認されたのは、収蔵を前提に管理者より借用して調査を進めていた木版画4点と書2点。同館を管理する前橋市文化国際課によれば、具体的な紛失作品の公表は所有者・保管者への影響を考慮して公表を差し控えているという。

 現在確認できている、同館の作品紛失までの流れについてまとめたい。2018年12月、紛失作品をふくむ52点が、作品保管者の自宅から旧前橋市立第二中学校の特別教室棟にあるパソコン室に搬入された。翌19年の3月にはアーツ前橋が借用作品の調査を、保管場所である校舎にて実施。この時点では作品の所在が確認されていた。

 そして同年12月、前橋市教育委員会がパソコン室の学校備品の不用品を処分することとなり、作品の処分を避けるために借用作品と学校備品の境界を明示する作業をアーツ前橋が実施。そのうえで、同月20日に学校備品を教育委員会が処分した。

 しかしながら20年1月、作品を保管場所からアーツ前橋に移す作業において3作品が見当たらないことを確認。さらに同年2月に保管場所を再調査したところ、さらに3作品が確認できず、計6作品の紛失が確認された。その後、作品所有者(都内)への紛失の報告や、前橋警察署へ経過相談を経て、同年11月に紛失を公表した。

 上述の流れから、今回の作品の紛失は次の2つがおもな可能性として考えられる。まず、19年3月以降の備品と保管品の区分けといった作業過程で、盗難などにより所在不明となった可能性。もうひとつが保管場所整理の際の区分けが不十分だったため、誤って不用品と一緒に処分された可能性だ。アーツ前橋は現時点では前者の可能性を加味して、古美術の市場をチェックするなど調査を継続している。なお備品処分に立ち会った教育委員会ならびに作業にあたった技師にはヒアリングを行っているが、いずれの可能性もいまは断定できていない。

 なお、旧中学校というアーツ前橋の収蔵庫外での作品保管についてだが、市はアーツ前橋が開館する2013年以前から前橋市が収蔵していた作品を所有しており、それらをすべて収蔵するキャパシティがアーツ前橋にはない。そのため、この校舎を含め外部施設で作品を保管することも多いという。保管場所となっていた中学校は教育委員会が管理しており、本来であれば借用申請を行ったうえで使用するものだったが、今回紛失した作品に関してはこの手続きが漏れていた。このため、アーツ前橋と教育委員会と保管の状況が共有できていない状況が発生していたという。

 現在は内部・外部の関係者や有識者で構成される調査委員会「アーツ前橋作品紛失調査委員会」(メンバーは非公表)が調査を継続。紛失にいたる流れや原因を検証し、再発防止のための対策を検討している。委員会はこの調査を経て3月中旬には報告書を作成し、責任の所在も含めて原因と現状を明らかにしていく予定だ。

 また、3ヶ月の休館中に行う所蔵作品の総点検は学芸員主導で実施する。アーツ前橋が開館後に前橋市から引き継いだ作品も含めた約800点弱を、収蔵庫のみならず、館外の施設等で保管している作品まで含めて確認。備品登録の台帳の中身と照らし合わせながら、3ヶ月かけてチェックする。

 美術館の信頼を揺るがしかねない今回の紛失事件。その全容と原因の解明のためにも、引き続き3月中旬の調査委員会による報告書発表を待ちたい。

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