メトロポリタン美術館が、新型コロナウイルスの影響で1億5000万ドルの資金不足に直面する恐れがあるため、コレクションの一部の売却を検討していることがわかった。
ニューヨーク・タイムズによると、同館の学芸員は重複している作品や展示されたことがほとんどない作品などを整理し、各部門の所蔵品を評価予定。売却される作品は競売前に部門長、館長、理事会の承認を得る必要があり、理事会は3月の評議員会で同館のコレクション保存方針の改訂を承認する必要があるという。
同館館長のマックス・ホラインは今回の決定について、「パンデミックがどのように展開するのか、私たちの誰も完全な見通しを持っていない。この霧のような状況のなかで、(コレクション売却を)考慮しないのは不適切であろう」とコメントしている。
コロナ禍の影響により、世界中の美術館は危機的な財政状況に直面。こうした状況下、アメリカ、カナダ、メキシコの美術館館長によって構成され、かつては所蔵作品を売却した美術館を制裁したこともあった「美術館長協会」(AAMD)は、2022年4月まで美術館が運営を維持するためにコレクションから作品を売却することを認める方針を示した。
こうした状況を受け、作品を売却した美術館も少なくない。ブルックリン美術館は昨年秋、ルーカス・クラナッハやロレンツォ・コスタなどルネサンス期の画家から、ギュスターヴ・クールベやカミーユ・コローなど19世紀のフランス近代美術家の作品をクリスティーズのオークションで売却し、3100万ドルの資金を集めた。
ボルチモア美術館は、女性や有色人種のアーティストを新規収蔵するなどコレクション整理のため、ブライス・マーデンやクリフォード・スティル、アンディ・ウォーホルの絵画作品を売却しようとした。しかし館長会との協議などを受け、競売2時間前にマーデンとスティルの作品を取り下げるという事態も見られた。
いっぽうのメトロポリタン美術館は昨年、ジョージ・フロイドの殺害事件や美術館内部の人種差別の問題を受け、「多様な美術史の分野におけるイニシアチブ、展示、収集を支援する」ための基金を設立。また有色人種のアーティストの作品を増やすために、今後12ヶ月以内に1000万ドルの買収基金を設立することを約束している。
同館のコレクション売却に対し、反対の声も出ている。同館の元館長であるトーマス・P・キャンベルは自身のInstagramで、「私は誰よりもよく、あの巨大な美術館を運営することの複雑さを知っている」としながら、次のような懸念を表している。
「危険なのは、運営費のための売却が標準になることだ。コレクションの売却は、依存者にとってはクラック・コカインのようなものであり、効果が強くて依存症になってしまう」。