美術館の再開、アンケートで見えた課題は? 「来館者・スタッフの安全性確保」に強い懸念

政府が「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」のなかで美術館・博物館の再開について言及するなか、現場の状況はどうなっているのか。美術手帖では全国274のミュージアムや文化施設を対象に緊急アンケートを実施。122施設から回答を得た。そこから見えてきた課題とは?

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 政府は5月4日に「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」を改正し、美術館・博物館の再開について言及した。このなかでは、「例えば、博物館、美術館、図書館などについては、住民の健康的な生活を維持するため、感染リスクも踏まえた上で、人が密集しないことなど感染防止策を講じることを前提に開放することなどが考えられる」とされ、再開には防止策の徹底が必要だとの認識が示されている。

 いっぽう、一部の県では制限の緩和も行われ、様々な対策を講じたうえで再開した館も見られる。こうした現状のなか、実際に美術館・博物館ではどのような対策を講じ、何が課題となっているのか。美術手帖では全国274の施設に選択式のアンケートを送付。122施設から回答を得た。アンケート実施期間は5月7日〜12日。

6割が「再開日未定」

 まず、前提となる館の再開については、半数以上の64パーセント(77館)が「再開日未定」と回答。「すでに再開済み」「再開日が決まっている」をあわせた数は35パーセント(43館)となった(残りは臨時休館していない館)。

 このうち、「再開日未定」と回答した施設について、館内のコロナ対策の実施段階を問うと、約半数が「検討中」で「進行中」が38パーセント。完了の目途は「5月中」がもっと多い62パーセントだが、「未定」と回答した館も27パーセントにのぼる。

 いっぽうで「すでに再開済み」「再開日が決まっている」館でも、コロナ対策「完了」は10館(19パーセント)で、「進行中」が24館(45パーセント)、「検討中」も15館(28パーセント)にのぼった。再開に対策が追いついていない状況が垣間見られる。

感染防止対策は?

 では実際にはどのような感染防止対策が取られているのだろうか。

 再開の如何に関わらずコロナ対策が「完了」と回答した館では、「消毒液の確保」は100パーセント実施。「清掃頻度の向上」と「ソーシャルディスタンスの確保」も80パーセント以上で完了しているとの回答を得た。次いで「マスクの確保」が70パーセント、「スタッフのローテーション勤務」が50パーセントとなっている。

 いっぽうで、感染可能性を見極めるための「検温」や、非常時連絡先などで使用する「来館者の個人情報確保」の実施は35パーセント程度。接触を減らすための「オンラインでのチケット購入システム」や「オンラインでの予約システム」などについては、ともに10パーセント以下という数字となった。

再開に課題は

 「コロナ対策における現状での課題または不安な点」(複数回答)で90パーセント以上の館が挙げたのが、「来館者の安全性確保」と「スタッフの安全性確保」だった。また「オペレーションの確立」も60パーセントと高い数字。コロナ対策のための「予算確保」や「行政・団体によるガイドライン策定」も、それぞれ50パーセント近い館が不安点として選択している。

 今回、自由記述では、「今後、意外に集中して来館されてしまった場合の制限が、経験がないが故むずかしい」「館内の対策は可能だが、県域をまたいでの来館者を止めることはできないので、その点が不安」「ソーシャルディスタンスの確保も含めオペレーションについて心配はないが、予想を超える混雑があれば、来館者の動線の整理には課題がある」などの意見が寄せられている。美術館ではこれまで、多くの来館者を集めることが命題のひとつだったが、今回のコロナでその状況は大きく変わった。

 なかには「集客を求めれば、社会的モラルと矛盾し、集客性を高めないと収支が合わないという現実のはざまで、多くの美術館が混乱していると思う。期せずして、美術館業界が築いてきた路線の弱点が浮き彫りになったかとも思える」という、難しい現状を訴える声もある。

 美術館の再開については、すでに国際美術館会議(CIMAM)が注意すべき20の項目を発表している。日本の美術館・博物館においても、現場の混乱を避けるために、ある程度統一された再開のガイドラインが求められる。

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