世界85ヶ国の近現代美術館に関わる専門家560名以上によって構成されている団体「国際美術館会議(CIMAM)」は、新型コロナウイルスが蔓延する状況において、美術館が注意すべき20の項目を公開した。
「Precautions for Museums during Covid-19 Pandemic」と題された今回の注意事項は、ユージーン・タン(ナショナル・ギャラリー・シンガポール館長)、スハーニャ・ラフェル(M+館長)、そして片岡真実(森美術館館長)によって作成されたもので、内容は大きく「来館者の安全」「スタッフの安全」「施設管理」「パブリック・コミュニケーション」の4カテゴリーに分けられている。
コロナによって、世界各国の多くの美術館が休館状態となっているが、中国やドイツ、イタリア、ベルギーなどは再開の動きを見せ始めている。コロナの完全な収束が見えないなか、美術館はどう対処すべきなのか。美術館関係者のみならず、美術館を訪れる人々も参照してほしい。
来館者の安全
1. すべての来訪者の検温を実施し、体調が悪いと思われる人に注意を払いこと。体調不良の来館者には入館を控えてもらい、医師の診察を受けるように促す。
2. 会場入口で、来館者やイベント参加者の連絡先(氏名、電話番号、メールアドレス)を把握するなどし、来場者を記録。連絡先を追跡できるよう対策を実施すること。
3. 来館者やイベント参加者の渡航および健康状態の申告書取得を検討すること。過去14日間に感染拡大地域を訪問している来館者やイベント参加者は帰宅を促す。
4. 可能であれば、来館者やイベント参加者全員がマスクを着用すること。
5. 参加者多数(現地の規制や注意事項にもよるが、一度に100名以上の参加者がある場合)のイベントはすべて中止・延期すること。
6. 高齢者やその他の弱者を対象としたプログラムやイベントは中止・延期すること。
7. すべてのガイドツアーは中止・延期すること。
8. イベントを実施するうえでは、以下の予防策を実施すること
ア) 来館者のあいだに最低1メートルの距離を確保すること。これを行うためには以下の通り、いくつかの方法がある。
・一度に入場できる人数を制限すること(会場やイベントスペースの広さに応じて、3平米あたりひとりを超えないようにすること)。
・来館のタイミングをずらすこと。
・来館時間に制限を設けること。
・来場者と参加者の距離を離すなどの工夫をすること。
・フロアマーカー(またはその他の形式のバリケード)を使用して来館者を誘導し、個人間の距離を1メートルに保つこと(入場列や、通常時はその場に立っていたり、動き回ったりするようなイベントの場合)。
・着席する場合は座席や列を互い違いにすること。この場合も、個人間に1メートルの距離を確保する必要がある。
イ)大人数で来館しないように促すこと(同一世帯の場合を除く)。来館者が集まりそうな場所を特定し、分散させるための措置を講じること(例えば、そういった場所に案内役のスタッフを配置する)。混雑を緩和するため、イベント前後のレセプションやネットワーキング・セッション、ティーブレイクなども避けるべき。食事や飲み物を提供すべきではない(ボトル入りの飲み物は可能かもしれない)。
ウ)とくに屋外イベントでは、参加者のアクセスを制限するための適切な封鎖措置(バリケードなど)をとり、イベント司会者が参加者に対し、十分な距離を保つように注意を促すこと。参加者の数を制限し、十分な距離を確保できない場合は、延期または中止されるべき。
スタッフの安全
9. 全職員が毎日、出勤時に1回、午後2時に1回の検温を実施し、その結果を記録すること。37.5℃以上の熱が記録された場合は、医師の診察を受けるように指示し帰宅させ、診断結果をオフィス内で記録しておくこと。
10. 全職員、とくに来館者対応のスタッフはマスクを着用すること。
11. すべての職員、出演者、参加者に社会的責任を自覚させ、自分の健康状態を把握させること。体調不良の場合はイベントへの参加を避けるようにすること。
12. スタッフ、とくに現金やその他の決済機器を扱う者、頻繁に手を洗うことができない者には手指用の消毒液を支給すること。
13. 各部署を2~3チームに分け、柔軟な働き方を検討すること。出勤はローテーションで管理し、在宅勤務もできるような仕組みを導入すること。
施設管理
14. 施設内の清掃・消毒の頻度を高め、とくに触る機会の多い物品は可能な限り取り除くこと。また、十分な清掃・消毒ができない場合、オーディオガイドの使用を中止し、プレイエリア等は閉鎖すること。
15. 来館者やスタッフが手を消毒できるように、手指消毒液を手の届きやすい場所(ドアノブに触れた後など)に置いておくこと。
16. 現金の取り扱いを最小限に抑えるために、チケットのオンラインまたはモバイル購入を奨励し、電子決済を採用すること。
パブリック・コミュニケーション
17. ソーシャル・ディスタンスや、来館者登録、検温などにおける注意事項を積極的に伝えること。
18. 目立つ場所に掲示物やポスターを設置し、利用者に関連する予防・管理措置(他のイベント参加者との握手を避ける、個人の衛生管理を徹底するなど)の注意喚起を行うこと。
19. 来館者に対し、衛生管理や健康管理、気分が悪くなったら会場に近づかないこと(早めに受診する)などの協力を呼びかけ、1メートルの距離を保つようにする。
20. 新型コロナウイルスに関連する差別を避けるため、パンデミックの事実を来館者やコミュニティと共有すること。