長引く新型コロナウイルスの影響により、各国の美術館や博物館の休館や、アートフェア・アートオークションの開催中止や延期などが続いている。アーティストやフリーランサーの収入減を含めた経済的影響も大きくなるなか、各国の公的機関はどのような支援を行っているのだろうか?
まず、イギリスのアーツ・カウンシル・イングランドでは「今後3ヶ月間の最優先事項は、アート、博物館、図書館で働く人々を支援すること」とし、アーティストやフリーランサー、公的資金によって文化団体で働く人々を支援するために、新型コロナウイルスの影響で失われた収入を補償する補助金プログラムに焦点をあてて検討を進めている。当事者から意見を集めたうえで、計画の詳細を今後発表するという。
また、アーツ・カウンシル・イングランドが資金提供するアート団体である「National Portfolio Organisations」と「Creative People and Places」については、引き続きの資金提供を続けるとともに、キャッシュフローを支援するための助成金の前払いも可能としている。
ドイツの連邦政府文化・メディアコミッショナーは、新型コロナウイルスが原因で、資金提供をした文化事業やイベントが早期に終了した場合は、予算・助成法に基づく個別審査の一環として、すでに事業実施に費やされた資金の返還を差し控えることができるとしている。また、文化機関、アーティスト、文化的・創造的産業に従事するほかのフリーランサーの利益となるように、連邦政府文化・メディア担当長官の既存の資金提供プログラムを強化する方針だ。また、緊急援助として、文化およびメディアに対する追加的資金を提供するという。
また、公的機関からの支援ではないが、アメリカのメトロポリタン美術館では、有給、時給労働者を支援する条項を含む、休館中の運営計画を策定した。ボストン美術館も休館中においては、スタッフに対して予定された時間・期間どおりに給与を支払うことを表明している。
このような海外事例を踏まえたうえで、日本においてはどのような公的支援が可能であるのか、Arts and Lawファウンダーで文化政策実務家・研究者の作田知樹に話を聞いた。
作田は「海外の場合、美術館などが休館すると、学芸員やスタッフがすぐに解雇されることも多く、例えばアメリカにおいては大規模修繕や改修などの場合の休館でも学芸スタッフの過半数が解雇されることも。単純な比較はできない」としたうえで、以下のように提案する。
「新型コロナウイルスの影響がこれだけ広範囲に及ぶと、収束、さらに回復には相当の時間がかかることが予想される。地震などと異なり、目に見える物的被害がないからこそ、見えづらい被害を把握することが重要だ。首相からも繰り返し『雇用を守る』という発言が出ているなか、文化に関わる国や自治体の行政責任者は、国の経済施策を待っているだけではなく、所管する文化事業に関して同様のメッセージを発することが必要。また文化従事者の団体などと連携して文化セクターに生じている損失の実態をできるだけ把握し、復興のための予算確保につなげることが望まれる」。
また、補助事業については、文化予算の削減の可能性に触れながら、PRの重要性を以下のように提起する。
「自治体文化施設や行政からの補助を受けた事業については、予定されていたプログラムの実施が既に困難になっており、年度を繰り越したとしてもまだ目処が立たない状況。施設やプロジェクトごとに独自の取り組みを模索していくことになるだろう。特に施設や地域型のプロジェクトについていえば、今回の事態において専門性を生かして行った事業について、事後に市民や議員などのステークホルダーにしっかりPRする機会を作ることが重要だ。専門性への信頼、必要性への賛同を得ていくというだけでなく、復興を名目として文化予算がさらに削られていく可能性を少しでも小さくする必要がある」。
文化事業の実施計画や予算に対して、大きな影響を及ぼしている新型コロナウイルス。いかにして事業に携わる団体・個人をサポートしていくのか、文化行政が主体となった支援策やメッセージの提示が強く求められる。