人口約6億5000万人を超えるASEAN地域全域の歴史的文化遺産をデジタルアーカイブさせる──そんな壮大なプロジェクトが、現在進行系で行われている。
「ASEAN Cultural Heritage Digital Archive」と名付けられたこのプロジェクトは、ASEAN諸国(インドネシア、カンボジア、シンガポール、タイ、フィリピン、ブルネイ、ベトナム、マレーシア、ミャンマー、ラオス)の貴重な歴史的文化遺産をデジタル化し、ASEAN地域全体の文化遺産を集約するデジタルアーカイブシステムを構築するというもの。ASEAN事務局が推進し、NTTデータが実際のデジタル化を担う。
NTTデータはこれまで、国立国会図書館やバチカン教皇庁図書館などのデジタルアーカイブ事業を手がけているが、美術品を含む文化遺産を取り扱うのは今回が初めて。プロジェクトは、日本政府の拠出金で2006年に設立された「日・ASEAN統合基金(JAIF)」の援助によって実施されるもので、第1フェーズとしてインドネシア、タイ、マレーシア3ヶ国の文化遺産約160点のデジタル化が完了した。
アーカイブされた文化遺産は、ウェブサイト「ACHDA」で公開されており、画像・音声・動画データだけでなく、立体造形物の3Dデータも見ることができる。
今回のプロジェクトの背景にあるのは、ASEANが目指す域内の結束だ。ASEANは「ONE VISION, ONE IDENTITY, ONE COMMUNITY」を掲げ、域内の一体感を醸成する文化事業を推進してきた。ASEAN事務局は、これまで各国個別に行ってきた文化発信をASEAN全域で一元化することで、域内の文化交流促進や、文化遺産の継承、さらには域外への文化発信を狙う。
また、近年では自然災害や戦災などで文化遺産が失われるケースも相次いでおり、こうした国を超えたアーカイブ事業は、文化遺産が災害や事故、経年劣化によって失われることを防ぎ、長期的に保全することも可能にする。
ASEAN事務次長(社会文化共同体担当)のクン・ポアックは、本プロジェクトについて「この地域の豊かで多様な文化遺産に対し、人々の理解と鑑賞を高めるというASEANの主要目的の重要なステップになる」としており、「ASEANアイデンティティ育成の努力をする中、私達はこのウェブサイトを使用するASEAN市民が、共有の文化遺産をよりよく理解し、より大きな地域への帰属意識を持つことを願う」と期待を寄せる。
近年、美術品や文化財のデジタル化には大きな注目が集まっており、スミソニアン博物館やメトロポリタン美術館などが相次いで所蔵品をデジタルで公開。また、Google Arts & Cultureは世界各国の美術館・博物館の作品画像などを集約している。こうした流れがあるなかで、ASEAN全域という大規模なデジタル化プロジェクトは大きな社会的インパクトを与えるだろう。