2020年の一大イベントである東京オリンピック・パラリンピック。その公式アートポスターが完成し、開会式まで200日となる1月6日、東京都現代美術館で初披露された。
五輪の公式アートポスター制作は、開催都市契約に定められた要件のひとつで、各大会の組織委員会は大会ごとに公式アートポスターを制作してきた。
1964年の東京オリンピックでは、亀倉雄策がそのデザインを担当。名作として多くの人々に親しまれている。
そして東京で二度目の五輪となる2020年は、オリンピック12作品、パラリンピック8作品の計20作品が制作された。オリンピックは浦沢直樹、大竹伸朗、大原大次郎、金澤翔子、鴻池朋子、佐藤卓、野老朝雄、ホンマタカシ、テセウス・チャン、クリス・オフィリ、ヴィヴィアン・サッセン、フィリップ・ワイズベッカーが担当。パラリンピックは荒木飛呂彦、柿沼康二、GOO CHOKI PAR、新木友行、野老朝雄、蜷川実花、森千裕、山口晃が担当した。
小池百合子東京都知事はアートポスターについて、「ポスター展が機運醸成につながると確信している。オリンピックはスポーツの祭典と同時に文化の祭典でもある。東京から発信できる文化を強調していきたい」と期待を寄せる。主なポスターとコメントは以下の通り。
主なポスターとコメント
浦沢直樹《あなたの出番です。/Now it's your turn!》
日本にはスポーツ漫画という、世界にあまり類を見ない漫画のジャンルが存在します。これは日本漫画が発展・隆盛していく上で大きな役割を担いました。スポーツ観戦のワクワク感が日本の週刊漫画という掲載ペースにフィットしたためです。手に汗握るスポーツの興奮をいかに漫画で伝えることができるか、漫画家はそれに挑戦し続けてきました。「次号につづく!」。読者は毎週、次回の展開をまるで本当の競技の行方のように見守るのです。これはオリンピックのために描きおろした漫画です。競技・人種・性別を超越した描き方に挑戦してみました。すべての人に出番があります。次はあなたの出番です。
大竹伸朗《スペース・キッカー/Space Kicker》
宇宙空間を光速で飛び交う色とりどりの天体ボール群・・・キラめく極彩色と神々との一期一会の戯れ・・・地上を遥か離れてそんなオリンピック光景を妄想していた。唐突にピンク色の人形が現れた。マバタキもせず飽きもせず淡々と真っ赤な球体を蹴り上げている。そいつは「遊びの神」なのか? 1964年東京オリンピック時に通っていた小学校で「切り絵」を習ったことを思い出した。頭に浮かぶ妄想宇宙を「切り絵」で表現してみようと思った。アトリエに散らばる色紙や印刷物、描きかけの絵を適当に切り抜いて宙に放り投げた・・・ハラハラと色の欠片が落ちた先にザックリと「スペース・キッカー」が現れた。
鴻池朋子《Wild Things - Hachilympic》
人間は一匹の動物として一人一人全部違う身体を持ち、全て違う感覚で世界をとらえ、各々の環世界を通して世界を生きている。それらは一つとして同じものがない。同じ言葉もない。同じ光もない。オリンピックがそのことに腹をくくって誠実に取り組めば、小さな一匹にとって世界は官能に満ち、やがて新たな生態系が動きだす。
ホンマタカシ《東京の子供/TOKYO CHILDREN》
オリンピックは選ばれた選手だけのモノではないと考えます。老人から大人、そして子供まで全国民のコトであり、希望であり、記憶に残るモノだという想いで制作しました。
フィリップ・ワイズベッカー《オリンピックスタジアム/Olympic Stadium》
数か月前、組織委員会から東京2020大会のポスターを制作してほしいといわれた時、はじめは「なぜ静物ばかり描く私が選ばれたのだろう?」と思いました。どうすれば良いか全くわからなかったのですが、こんな栄誉あるご依頼をお断りすることは、無論できません。エージェントの貴田奈津子に手伝ってもらい、オリンピックにまつわる要素をインターネットで探してみました。新国立競技場の画像を見つけた時、これは試してみる価値のある素材だと思いました。そして資料をいただき、多数のスケッチを描いた後、ようやく納得できる作品を仕上げることができ、日本に送りました。それから数週間後、印刷所の方から校正刷りを受け取ったのですが、改めて見直してみると、どうも満足がいかない、と感じてしまったのです。それはいかにも、大胆さや本質性に欠けていたのです。締め切りの期限が迫っていたのですが、特別にご無理をきいていただき、最初からやり直すことができました。開催地が日本ということもあり、和紙に描くことにしました。和紙は普段から作品制作によく使っています。そして手の赴くままに、オリンピックスタジアムの姿を描きました。
荒木飛呂彦《神奈川沖浪裏上空/The Sky above The Great Wave off the Coast of Kanagawa》
荒波のような雲。スポーツの神々が上空から日本へ舞い降りるイメージで描きました。葛飾北斎-「神奈川沖浪裏」の構図をモチーフに、富士山を何色に塗るか悩みましたが、ハチミツ色に塗りました。
柿沼康二《開/Open》
3000年以上の歴史を持つ書は、日本文化芸術の大きな柱の一つです。その書の歴史を探求し、現代を生きる書の模索と発表を続けてきました。東京2020オリンピック・パラリンピックのアートプロジェクトに際し、何万もの漢字、また無限の言葉の中から何をモチーフにするべきか葛藤した結果、辿り着いたものが「開」の一文字でした。「全身全霊が宇宙に向かって無条件にぱーっとひらくこと。それが爆発だ。」芸術家・岡本太郎の創造への挑戦と哲学を示す言葉がこの作品の根底をなしています。自身の頂きへ日々挑むアスリートの魂を胸に、「ひらけ!ひらけ!ひらけ!...」と自分自身が完全に開ききるまで筆を紙に叩き込みました。日本開催の世紀の祝祭、世界から集うアスリートやスポーツ関係者のみならず、大会を支える私たち一人ひとりが可能性に向かい大きく心を開き、この平和の祭典を未来に継承できることを願います。
蜷川実花《Higher than the Rainbow》
鳥海連志選手と私、カメラだけが存在する空間で、ただただシャッターを切った。パラアスリートはかっこいい。シンプルなその思いを込めて撮影した1枚。なにもない空間から作品が生まれるように、あらゆることを超えるはじまりは、なにげないところにある。
山口晃《馬からやヲ射る/Horseback Archery》
日々が挑戦の方々を生き物にまで広げた。世の中が住みやすくなるように。
*
なおこれらのポスターは、全長100メートルを超える東京都現代美術館のエントランスホールで展示。ポスターを展示する什器は、公式エンブレムを構成する四角形を、角度を変えずに立体的に並べたデザインとなっており、エンブレムとポスターの融合を体感できる展示空間が創出された。