負の側面は部分的
今年8月から10月にかけて開催された「あいちトリエンナーレ2019」内の「表現の不自由展・その後」展示中止を受けて設置された愛知県の検討委員会(座長=山梨俊夫国立国際美術館長)は、最終報告書と第一次提言をまとめ、大村秀章愛知県知事に提出した。
今回の最終報告は、9月にまとめられた「中間報告」に「全体所見」を加えるかたちで作成。全体初見では、約67万人という来場者数を踏まえ、展示中止にともなう海外作家たちのボイコットを含むアクションなどがありつつも、「負の側面は部分的」だとした。
また「拡大するネット環境やSNSによって反知性主義が可視化された」と指摘するいっぽう、「国内外の芸術家と市民の広範な連帯が実現し、芸術祭の新たな局面が示された」という評価もしている。
不自由展中止はやむを得ない
検討委員会設置のきっかけとなった「表現の不自由展・その後」に関する調査報告では、「できあがった展示は鑑賞者に対して主催者の趣旨を効果的、適切に伝えるものだったとは言い難く、キュレーションと、来訪者に対するコミュニケーション上の多くの問題点があった」としており、「会場内の『不自由展』の全体の見せ方と来訪者へのコミュニケーションについても、もっと工夫すべき点が多々あった」などの問題点を指摘。
不自由展の中止は「脅迫や電凸等の差し迫った危険のもとの判断でありやむを得ないもの」とし、「表現の自由(憲法第21条)の不当な制限には当たらない」との判断は、中間報告から変わらずに明記された。
また芸術監督・津田大介に関しては、「人選自体に問題はなかったと思われる」とするいっぽうで、「アートの専門家ではなかったため、キュレーターとはアート面では同等の立場にあって相互に助言し、あるいは牽制する仕組みを目指した。しかし、十分に機能しなかった」などとしている。
検討委員会は、「あいトリは継続されるべき」としながら、2020年8月をめどに新芸術監督の体制をつくる必要があると指摘するとともに、知事が兼任してきた実行委員会会長を民間から登用すること、アーツカウンシルにあたる組織を設置すること、芸術監督の権限の見直しなどを提言。提言に基づき、検討委員会が具体的な作業を継続する方向性を示した。
いっぽう、芸術監督・津田大介は最終報告書について、ウェブサイトを通じて反論を公開。「『表現の不自由展・その後』に関する調査報告書は、芸術監督に責任を負わせるという結論ありきなのではないかとの疑いを生じさせるものであった。実際、調査報告書では、芸術監督に対する非難に固執する部分が散見される」など、複数の視点から最終報告を批判している。
津田の見解はこちらのサイトで全文公開されている。