NEWS / HEADLINE - 2019.10.10

「あいち宣言(プロトコル)」の草案発表。補助金不交付への牽制も

あいちトリエンナーレ2019において、参加作家有志が「あいち宣言(プロトコル)」の草案をまとめた。一般からの意見募集も行っている。

 

「あいちトリエンナーレ2019」のメイン会場である愛知芸術文化センター

 「表現の不自由展・その後」の展示再開で大きな注目を集める「あいちトリエンナーレ2019」。その実行員会会長である大村秀章愛知県知事が採択を目指す「あいち宣言(プロトコル)」について、草案がまとめられた。

 この草案は、トリエンナーレ参加作家有志が専門家の意見を交えながらまとめた原案に、一般からの意見などを加え「行動規範」として作成したもの(全文はトリエンナーレ公式サイトで閲覧可)。

 原案に明記されていた「芸術の自由」はここでも引き継がれており、「芸術の自由」は「『表現の自由』に支えられる芸術家およびそれを送り出す美術館、芸術祭およびこれらを構成する関係者が有する権利」と、「『知る権利』に支えられる鑑賞者、そして潜在的な鑑賞者となりえる現在または未来の市民が有する『芸術を享受する権利』を中心とした諸権利」で構成されるとしている。原案からは「潜在的な鑑賞者となりえる現在または未来の市民」という文言などが追加されたかたちだ。

 この「芸術の自由」は日本国憲法においては規定されていないものの、ドイツなどが憲法に明記している例があることを指摘しており、草案では「憲法上の権利の一部として見ることも可能」だとしている。

 また「芸術の自由」の重要性として、次の3点を挙げている。

1. 芸術家や美術館は、いかなる公権力による圧力からも、自由に芸術活動を行うことができ、その創造性・自主性は最大限尊重されなければならない。
2. 展覧会主催者は、未来に責任を持ち、その作品を第三者の暴力から防ぐことを責務とする。
3. 芸術への公的支援および助成は、支配を意味しない。またその受給は、服従を意味しない。

それぞれの権利と責務

 この草案では、原案と同じように「芸術家」「鑑賞者および協力者(原案では鑑賞者および芸術祭を支えるステークホルダー)」「芸術監督およびキュレーター」「カルチュラル・ワーカー」について、それぞれの責務と権利を記載。

 「芸術家の権利」では、自由な創作活動やそこに含まれる公正な範囲でのパロディ・オマージュの行使などを記載するとともに、原案通り「芸術家には、自身が参加する展覧会の内容や文脈について、事前に知る権利がある」という文言が盛り込まれた。

 これは、「あいちトリエンナーレ2019」において、参加作家に事前に「表現の不自由展・その後」の内容が明かされなかったことへの応答ととらえることができる。

 また「芸術家の責務」としては、芸術が暴力性を含みうることから、鑑賞者の「見る権利/見たくない権利」への十分な配慮と、問題が生じた場合の適切なコミュニケーションの実施など、鑑賞者等に対する安全性の最大限の配慮などが明記されている。

 いっぽう、「鑑賞者および協力者」については、知る権利や多様な芸術を享受する権利、差別表現等に対して抗議する権利など5つの権利を定めた。

 「芸術監督およびキュレーター」については、3つの権利と7つ(原案では6つ)の責務を記載。原案通り、「キュレーションにおいて、出展作品の選択は、専門性にもとづいた文脈化であり、即座に検閲にはあたらない」とするいっぽうで、「学芸部門(原案では「芸術監督やキュレーター」)は、キュレーションにおいて作品選択を行うさいに、その文脈化の意図や背景を芸術家に説明し、検閲や自主規制がひろがらないよう十分な協議をもって実践する責務がある」とした。

 またこの責務のなかでは、「必要に応じて外部の芸術分野専門家からなる第三者の検証や、危機管理の専門家の助言を受けることを責務とする」など、ガバナンスに関する項目も盛り込まれているのが特徴だ。

 「表現の不自由展・その後」展示中止の直接的な原因となった電凸や脅迫FAXでは、県職員に対する個人攻撃などが発生した。この宣言草案では、こうした運営に携わるスタッフを「カルチュラル・ワーカー」としており、カルチュラル・ワーカーには「人格や人権を『傷つけられない権利』がある」「抗議の対応にあたって、主催者および学芸部門は十分に必要な情報を事前に提供しなければならない」などの権利を規定した。

 あいち宣言の草案で大きな特色となるのが、国や地方自治体など行政の責務を明示していることだ。

 「国や地方自治体および文化行政組織、独立行政法人、指定管理者、アーツカウンシルの責務」では、4つの責務を定めている。そのなかには、文化行政による補助金・助成金の審査・交付に関する次のような責務も記載された。

文化行政による補助金・助成金の審査および交付にあたっては、アームズレングス原則に鑑みて、公権力からの影響を無化するよう務め、アーツカウンシルなど専門家による第三者機関に委ねる。アーツカウンシルを初めとした文化行政組織、独立行政法人、および美術館の指定管理者は、表現内容への公権力による介入を許してはならず、また、表現内容についての公権力にたいする忖度の誘惑を断ち切ること。また、いったん採択された補助金・助成金について、表現内容を理由に、不交付または交付取消をすることは許されない。なお、その審査の手続きについては議事録などを残し、透明化をはかる責務がある。

 これは、文化庁が「あいちトリエンナーレ2019」に対する補助金交付を取りやめた問題と関連するものであり、文化庁内部のみで決定されたことや決定までの議事録が存在しないことなど、ずさんな手続きへの批判と同様の事例が将来的に起こる可能性への牽制とも考えられる。

 あいちトリエンナーレでは現在、この宣言草案に対する一般意見を募集。実際の宣言とりまとめの参考にするとしている。