アメリカの実業家、ジャン・ポール・ゲティが1954年、ロサンゼルスに設立したJ・ポール・ゲティ美術館は、中世から近現代までの西洋美術や、19世紀から1960年代までの膨大な写真コレクションなどで知られる、アメリカ有数の私設美術館だ。
先週、イタリアの最高裁判所はこの美術館に対して、所蔵するブロンズ像《勝利した若者の像》のイタリアへの返還を命じた。
紀元前300〜100年のあいだにつくられたとされるギリシャ彫刻《勝利した若者の像》は、「勝者」のシンボルであるオリーブの花輪に手をかけるようなポーズをとる男性図。本作は、古代ギリシャ1964年に国際水域で発見されたもので、J・ポール・ゲティ美術館がドイツの骨董商から395万ドル(約4億4600万円)で合法的に購入したと主張する。これに対してイタリア当局は、本作はイタリア人漁師によって発見された後、イタリアのアートディーラーが購入するも、数回の転売を経て違法に国外に持ち出されたことで、最終的にゲティ美術館の手に渡ったと主張。
そして今年6月、イタリア・ペーザロの裁判所は同美術館に対して、《勝利した若者の像》像をイタリアに返還するよう命じたが、美術館側は上訴。今月3日には、最高裁判所は原判決を維持し上告を棄却。しかし美術館側は徹底抗戦の構えを見せているという。
じつは、コレクションをめぐるイタリアと同美術館の論争はこれが初めてではない。2007年には、裁判を経て、美術館は古代ギリシャのブロンズ像《女神の崇拝像》(通称:アフロディーテ)を含む40点のコレクションをイタリアに返還することに合意。しかし《勝利した若者の像》については折り合いがつかず、この時点で協議延長の合意がなされていた。
なお、コレクションの返還をめぐっては、イギリス・大英博物館やフランスのケ・ブランリ美術館なども、近年その要求対象となってきた。ケ・ブランリ美術館については今年11月、植民地時代にアフリカからフランスへ持ち出した作品26点を返還することを表明している。