美術手帖 2018年8月号
「Editor’s note」

7月6日発売の『美術手帖』 2018年8月号の特集は「ポスト・パフォーマンス」。編集長・岩渕貞哉による「Editor’s note」をお届けします。

『美術手帖』2018年8月号より

 今号では「ポスト・パフォーマンス」特集をお送りします。近年、美術館を中心に展示空間でのダンスや舞台芸術の企画が多く見られるようになった。いっぽうで、演劇祭でのパフォーマンスや舞台公演に美術作家が積極的に起用されている。

 本特集は、こうした状況の背景を、美術館/劇場の制度からの視点、美術/舞台芸術の表現の視点から探っていくことを企図している。「パフォーマンス」は、20世紀初頭の前衛運動であるダダから生まれた美術史的な文脈をともなうものである。そのうえで、現在の「パフォーマンス的転回」と呼ばれる状況を広くとらえるために、パフォーミング・アーツとパフォーマンス、アーティストによるパフォーマンスと「委任されたパフォーマンス」、またソーシャリー・エンゲイジド・アートに見られるような参加型のパフォーマンス等を大きく括る仮設的な言葉として「ポスト・パフォーマンス」と呼んでいる。

 特集の構成は以下となる。PART1では、美術館で「映像演劇」の展示/上演を行ったチェルフィッチュ・岡田利規、昨年のヴェネチア・ビエンナーレのドイツ館での金獅子賞受賞が話題をさらったアンネ・イムホフらのインタビューから「新しい形式」を模索するアーティストの実践を紹介している。PART2では、パフォーマンス研究の江口正登を監修に迎え、ポスト・パフォーマンス的状況を考えるためのキーワードを表現形式や制度などから概説する。そしてPART3では、アーティストの高嶺格、舞台芸術のプロデューサーである相馬千秋、KYOTO EXPERIMENTプログラムディレクターの橋本裕介の鼎談とドラマトゥルクによる論考で、欧米やアジアにおける今日的な動向や課題をたどる。田中功起のテキストでは、パフォーマンスの形式の検討からパフォーマティヴィティへの接続を試みる。最後は、『人工地獄』において「委任されたパフォーマンス」を批判的に俎上にあげたクレア・ビショップが「美術館におけるダンス」の問題と可能性を論じたテキストを翻訳掲載する。

 ある時間と空間を身体性によってどのように組織化するか。このことは美術や舞台芸術の制度を超えて、社会や日常における私たちの身体とその振る舞いにつながっているはずだ。この特集をきっかけに、改めて考える機会となれば幸いである。

2018.07
編集長 岩渕貞哉

『美術手帖』2018年8月号「Editor’s note」より)

編集部

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