本号では「アートと人類学」特集をお送りします。アートと人類学はいま、おたがいの方向から歩み寄っていて、重なり合う部分が大きくなってように思える。
アートでは、世の中の事象をリサーチして、そのドキュメントやアーカイヴを映像やインスタレーションといった様々なメディアを駆使しながら、ときにフィクショナルな手法や造形的な文法に沿って表現するアーティストが注目を集めている。また、「ソーシャリー・エンゲイジド・アート(SEA)」という、アーティストが社会に介入し、参画していき、そこでの対話や共同作業を通じて、社会の変革を目指すより直接的なアプローチも、アートの新しい可能性として注目を集めている。そして、その対話の対象はモノへも広がっている。
一方、人類学では、従来の調査の仕方やその記述の仕方にたいする内省から、フィールドワークを通じて、参与観察と自らの感覚を出発点とするような、従来の記録や記述の手法を超えていく、新しいアプローチが模索されてきた。さらに映像人類学の分野では、メディアテクノロジーの発展もともなって、センサリーメディアと言われる、これまでの写真や文字といった視覚重視のものから、体感に訴える映像をはじめ、サウンド、パフォーマンスといった感覚を駆使した方法が取られるようになってきている。ここでも、他者の範囲や自らをも含んだ世界との向き合い方が更新しているのだ。
私は、この特集で人類学者のエドゥアルド・ヴィヴェイロス・デ・カストロの「人類学の役割は他者の世界を説明することではなく、私たちの世界を多元化することだ」という言葉に出会い、目からウロコが落ちるような感覚があった。これはそのままコンテンポラリー・アートにも当てはまるのではないだろうか。さらに、アートは私たちの世界を可能性のほうへ開いていくものであるべきなのだ。
そして、本号からは台割をリニューアルしています。レビューや展覧会情報など時事的な要素の強い記事はウェブ版に移行し、隔月刊となった本誌ではより腰を据えて取り組んでいくテーマを扱っていきます。さらに、創刊70周年を記念して、前回から5年ぶりとなる「第16回芸術評論募集」を行います。野心あふれる応募をお待ちしています。
2018.04
編集長 岩渕貞哉
(『美術手帖』2018年6月号「Editor’s note」より)