第58回ヴェネチア・ビエンナーレ、日本館代表作家は下道基行、安野太郎、石倉敏明、能作文徳に決定。キュレーターは服部浩之 

2019年にイタリアで開催される第58回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展。その日本館代表作家とキュレーター、そして展示テーマが発表された。

「Cosmo-Eggs|宇宙の卵」展示の様子 作成=能作文徳建築設計事務所

異なる分野の4人がコレクティブとして協働

 1895年以来、120年以上の歴史を刻んできた世界を代表する国際展「ヴェネチア・ビエンナーレ」。その第58回の日本館代表作家が下道基行、安野太郎、石倉敏明、能作文徳に決定。キュレーターは秋田公立美術大学大学院准教授の服部浩之が務める。

左から能作文徳、安野太郎、下道基行、服部浩之(石倉敏明は欠席)

 参加作家の下道基行は1978年岡山県生まれのアーティスト。日本の国境の外側に存在する鳥居を撮影した「torii」シリーズで知られる下道は、リサーチやフィードワークを軸とした作品を多数発表。考古学的な視点も持ち合わせ、境界線上を行き来しながら制作を進めてきた。

 また、安野太郎は1979年東京都生まれの作曲家。空気の流れで管楽器が奏でられるという原理に着目した『ゾンビ音楽』などを制作・発表。本展では人がいなくなっても奏でられ続ける、未来の音楽のかたちを模索するという。

 いっぽう、石倉敏明は1974年東京都生まれの人類学者。神話や宗教の観点から研究を進め、山伏の修行も修めるなど、土地そのものに深く入り込む人類学者として活動。これまで田附勝や鴻池朋子などと共に協働制作・制作協力を行うなど、人類学と現代芸術を結ぶ独自の活動を展開している。

 そして、能作文徳は1982年富山県生まれの建築家。純粋な建築デザインのみを追求するのではなく、場の文脈と状況、ものの意味や根拠を読み取り、活かすことを重要視しており、2016年の第16回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展の日本館でも紹介された。本展では空間構成を担当する。

 これら異なる分野の参加作家を束ねる服部は、1978年愛知県生まれのキュレーター。早稲田大学大学院を修了後、2009年から16年まで青森公立大学国際芸術センター青森[ACAC]で学芸員を務めた後、17年より秋田公立美術大学大学院准教授。アジアを中心に展覧会やリサーチを展開しており、「あいちトリエンナーレ2016」をはじめとする多数のプロジェクトに参加してきた。

服部浩之

テーマは「Cosmo-Eggs|宇宙の卵」

 今回の日本館のテーマは「Cosmo-Eggs|宇宙の卵」。地球規模の長い時間や空間の広がり、そして人と地球や土地との関わりかたに思いをめぐらせ、考える場を築くことを目的としているという。「Cosmo-Eggs|宇宙の卵」という概念は、「宇宙卵(Cosmo-Eggs)」から世界は誕生したという神話学における「卵生神話」をもとに、人間/非人間の共生や、複数の神話/歴史の共存という主題を喚起させるイメージを孕むもの。

 本展は下道が2015年に沖縄の八重山諸島で出会い、数年間リサーチと撮影を続けている「津波石」(大津波で海底から陸上に運ばれた巨石)が起点となっている。この津波石を「広場」あるいは「モニュメント」にたとえ、各アーティストが協働し、多様な身体経験を生み出すことを目指すという。

下道基行《津波石》(2015-)より

 また、本展では「協働」も重要な要素となる。集団(コレクティブ)で取り組むことの今日的意味や課題、複数的な思考や共生のあり方を探求。それとともに、アーティスト・イン・レジデンスなどの機会における作家同士の触発が生む未知の想像や実験の可能性などを考えるという。

 展示では、日本館ピロティに大きなビニール製の階段を設置。この階段を登ると、空気圧によって音楽を奏でる安野のリコーダーが鑑賞者を迎える。階段を登りきった展示室には4面のスクリーンが設置され、それぞれに下道の津波石の映像が投影。このスクリーンが展示室の内側と外側を隔て、外側には石倉によるテキストが展示されるという。

「Cosmo-Eggs|宇宙の卵」展示の様子 作成=能作文徳建築設計事務所
「Cosmo-Eggs|宇宙の卵」展示の様子 作成=能作文徳建築設計事務所

 なお、ヴェネチア・ビエンナーレは指名コンペティションを取り入れており、今回は服部のほかに候補者として荒木夏実(東京藝術大学美術学部/大学院准教授、参加作家=目)、遠藤水城(東山アーティスツ・プレイスメント・サービス代表、参加作家=亜欧堂田善、雨宮庸介、井上有一、梅田哲也、法政大学出版局「叢書・ウニベルシタス」)、金井直(信州大学人文学部教授、参加作家=白川昌生)、長谷川新(インディペンデント・キュレーター、参加作家=眞島竜男)、林道郎(上智大学国際教養学部教授、参加作家=岡﨑乾二郎+中谷芙二子)がコンペに参加。選考を行った国際展事業委員会は講評の中で「甲乙つけがたかった」としながら、「バランスのいいチーム編成などにも特色があり、これまでにない成果がそこから生まれることを期待して採択案とした」としている。

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