約100年の美術をたどりながら「植物と歩く」。練馬区立美術館で作家を触発してきた植物の歴史を探る

練馬区立美術館で、植物がいかに作家を触発してきたかを、洋画、日本画、ガラス絵、版画、彫刻、和本、植物標本といった様々なジャンルの作品を展示することで探る展覧会「植物と歩く」が開催される。会期は7月2日〜8月25日。

佐田勝 野霧 1970年代 キャンバスに油彩 97×191cm

 東京・練馬の練馬区立美術館で、植物がいかに作家を触発してきたかを同館コレクションを中心に探る展覧会「植物と歩く」が開催される。会期は7月2日〜8月25日。

 本展の印象的なタイトル「植物と歩く」には、植物の営む時間と空間に感覚をひらき、ともに過ごすという意味を込められているという。練馬区立美術館の収蔵作品を中心に、プロローグとエピローグを加えた計5章で洋画、日本画、ガラス絵、版画、彫刻、和本、植物標本といった様々なジャンルの作品を展示する。

森白甫 夕紅 1953 紙本着色 練馬区立美術館蔵

 プロローグでは、作家たちが植物とどのように対峙しながらその姿を写し取ってきたのかを探る。植物学者・牧野富太郎による緻密な植物図や、倉科光子が東日本大震災の津波浸水域のフィールドワークを通じて制作した水彩画「ツナミプランツ」など、その視点の多様さを提示する。

牧野富太郎 「ホテイラン」(東京帝国大学理科大学植物学教室編纂『大日本植物志』、第一巻第四集、第一六図版)  1911 紙に多色石版印刷 48x36cm 個人蔵
倉科光子 35°36'38.1"N 139°27'38.0"E 2010-2015 水彩紙に透明水彩 作家蔵

 第1章「花のうつろい」では、植物の部位のなかでも古くから特別に扱われてきた「花」を取り上げる。早川芳彦が日本画に描いた季節感と華やぎをもたらす花や、靉光の不穏さを漂わせる花、須田悦弘の木彫による写実的ながらもどこか現実離れした花など、その表現の豊かさが感じられるはずだ。

早川芳彦 作品タイトル不詳 制作年不詳 絹本着色 二曲一隻 177.0×199.6cm
須田悦弘 チューリップ 1996 岩絵具・木 38.0×10.0×8.5cm © Yoshihiro Suda / Courtesy of Gallery Koyanagi

 第2章「雑草の夜」は、生命力を感じさせるとともに、ときに繁茂する不気味さも漂わせてきた「草」を取り上げる。ここでは小さな葉が埋め尽くす油彩画を描いた佐田勝などが展示される。

 第3章「木と人をめぐる物語」では、古くから人間が素材として利用しながらも、生命の象徴となる神秘的な存在としても扱われてきた「木」をテーマに据える。ここでは、大小島真木がインドネシアの木にまつわる風習から着想して制作した作品などが紹介される。

大小島真木 胎樹 Fetus tree 2020 アクリル、ラッカースプレー、マーカー・綿 368×546cm 2020年の練馬区立美術館での展示風景

 最後となるエピローグは「まだ見ぬ植物」と名づけられている。まだ地表には見えていないたねとしての植物へと視野を広げさせるような、土や水など芽吹きを準備する環境や時間に言及する作品を紹介する。土や循環してきた時間と「たね」との関係は、美術館という場と美術作品との関係にも共通するものであるだろう。このような「たね」としての美術作品が、今回の展覧会でどのように芽吹いているか、来館者に提示されるという。

 つねに人々の身近にあり、その存在が多様に解釈されて作品のモチーフとされてきた植物。あらためて美術と取り結ばれたその関係を考えることができる展覧会になりそうだ。

佐藤多持 水芭蕉曼荼羅(黄104) 1991 紙本墨画 練馬区立美術館蔵
小野木学 枯れたアカツメクサ 1976 紙にパステル、水彩 練馬区立美術館蔵

編集部

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