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国立新美術館の「ねずみ」はどこからやって来たのか? 築地のはらインタビュー

国立新美術館のパブリックスペースを使った小企画シリーズ「NACT View」。その第2回目として開催されている 「築地のはら ねずみっけ」は、美術館の各所にプロジェクション・マッピングによるねずみのアニメーションが現れ、またARによってねずみを探すこともできる展示として話題を集めている。本作を制作したアニメーション作家・築地のはらに本作を含めた制作について話を聞いた。

聞き手・文=安原真広(ウェブ版「美術手帖」編集部)

築地のはら《ねずみっけ》(2023) 国立新美術館 展示風景 撮影=梅田健太

台車でプロジェクターを移動させた《向かうねずみ》

──築地さんは《向かうねずみ》(2019)で、第6回新千歳空港国際アニメーション映画祭の日本グランプリや、第23回文化庁メディア芸術祭のアニメーション部門の新人賞といった賞を受賞され、その活動が知られるようになりました。当時の状況や作品のコンセプトを改めて教えていただけますか。

 《向かうねずみ》は東京藝術大学の大学院の修了制作として制作したものです。ちょうど、築地市場が築地から豊洲に移転するタイミングで、築地にいた推定1万匹はいるとされるねずみたちがどこに行くのか、という問いも絡めながら制作をしました。

 プロジェクターとカメラを台車に搭載し、その台車を移動させながらアニメーションを街に投影し、それを撮影するという作品です。手もとのアプリケーションを使って、任意のタイミングでねずみを転ばせたりジャンプさせたりすることで、街をねずみが自在に動き回ります。

《向かうねずみ》(2019)で使用された台車 ©築地のはら

──今回の《ねずみっけ》も含めて、築地さんのほとんどの作品にはこのねずみが登場しますが、なぜねずみなのでしょうか。

 《向かうねずみ》以前から、ねずみのモチーフは使用していました。そんなに深いことは考えていなかったのですが、色々とキャラクターを考えていくうえで自分のアイコンになるようなものとして、統一して使用するモチーフになっていきました。

築地のはら《ねずみっけ》(2023) 国立新美術館 展示風景 撮影=梅田健太

プロジェクションとAR

──今回の《ねずみっけ》は、国立新美術館の2ヶ所にプロジェクションによってねずみが動き回るアニメーションと、ARでねずみを探す作品によって構成されています。美術館の展示室ではない開かれた空間での展示ですが、本作を制作するにおいてはどのようなことを意識しましたか。

 パブリックな場所でやるならプロジェクションマッピングだろうということで、美術館の壁面にプロジェクションをする、という方向性はあらかじめ決まっていました。舞台となる国立新美術館も馴染み深い美術館でしたし、黒川紀章さんの建築もとてもおもしろい造形をしていて興味をそそられます。サーチのために足を運びながら、この建築のどこに作品を投影するのか、というところを楽しみながら考えていきました。

 やはりアニメーションを実際の建築に投影することはおもしろくて、美術館の壁面の凹凸でねずみたちの形が変化したり、見る角度によってゆがみが発生したり、といったところに私はおもしろさを感じています。現実の三次元空間が、二次元のアニメーションに影響するという関係を見せられたらと思っています。

築地のはら《ねずみっけ》(2023) 国立新美術館 展示風景 撮影=梅田健太

──プロジェクションのみならず、ARを組み合わせるという方向性はどのように決まったのでしょう。

 2019年に秋田市立千秋美術館、秋田県立美術館、仲小路商店街をアートでつなぐアプリ「artline AR」をリリースしたときに、AR作品を初めて制作したのですが、それがすごく楽しかったので、国立新美術館でも試してみたいと思いました。

 プロジェクション・マッピングの制作や設置はそこまで苦労しなかったのですが、ARはかなり挑戦しなければいけない部分があり、とくにARを出現させるうえで指標となるターゲットを探すところに苦労しました。美術館側の「より美術館を知ってもらいたい」という思いもあり、館内にあるシンボル的なものを利用したいと考えたので、それを探すのが大変でした。

技術や機能が創作を喚起させる

──アニメーションをどのように制作しているかについてお聞きできればと思います。

 基本的にはアフターエフェクト(*)で制作しています。ねずみのさまざまなパーツをつくり、それぞれのパーツをアフターエフェクトでキーフレームを設定しながら、アニメーションとしてなめらかにつなげて動きをつくっています。

作品制作中の画面 ©築地のはら

──ARのみならず、築地さんの作品はつねにアニメーションを手触りのある現実の空間に持ち込むということを目指しているように感じられます。初個展「のはらのはらっぱ」(2021、ギャラリー・パリオ、東京)で発表された作品《空腹のねずみ》(2021)は、アフターエフェクトで制作したアニメーションを、レーザーカッターで一枚ずつ出力してコマ撮りのアニメーションを制作していましたが、デジタル上のアニメーションを現実に落とし込むという観点が新鮮でした。

 初めてのコマ撮りアニメーションだったので本当に大変でしたね(笑)。ただねずみが歩いているだけなのですが、その制作の過程も含めて作品という感じがしています。

 昨年、東京造形大学の助手展で発表した《fractalies》という作品は、アフターエフェクトのパスツールを使って制作したベクター画像の、どんなに拡大しても画面が粗くならないという特性を利用したものです。

 このように私の作品の多くは、技術や機材といった要素が発想のきっかけになっています。自分の知らなかった作り方や表現方法に出会ったときに、その機能や特性がどうアニメーション表現に活かせるかを考えるのが好きです。

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