2022.7.15

工藤麻紀子、鴻池朋子からライアン・ガンダー、ジャン・プルーヴェまで。3連休に見たい展覧会ベスト10

先週から今週にかけて開幕した展覧会や、今週末に閉幕する展覧会のなかから、とくに注目したい10件をピックアップしてお届け。最新情報は各館公式サイトを参照してほしい。

「みる誕生 鴻池朋子展」の展示風景より
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現実と夢が混在した心象風景を描く。「工藤麻紀子展 花が咲いて存在に気が付くみたいな」(平塚市美術館)

 現実と夢が混在した心象風景を描くことで知られる画家・工藤麻紀子。その国内美術館での初個展「花が咲いて存在に気が付くみたいな」が平塚市美術館で開催されている。

展示風景より

 色面による構成と装飾的な表現により、日常の生活を題材にした心象風景を描き続けてきた工藤。その身近な出来事に対する思いを作品に投影させる描き方は、制作初期から一貫したもの。作品の画面には普段の生活で見聞きしたもの、住む土地や記憶が一体となり、夢のなかのような混沌とした風景が広がっている。同時に、作品を見る人にとって、記憶にある風景や出来事を呼び覚ます、親密さとストーリー性も有している。

 本展では、新作とインスタレーション作品を含む約120点により、工藤の現在までの活動を紹介。工藤の作品との出会いは、現代の絵画表現に馴染みのない人にとっても、イメージのなかに身をゆだねる楽しさや発見をともなう体験をもたらしてくれるだろう。

会期:2022年7月9日〜9月11日
会場:平塚市美術館
住所:神奈川県平塚市西八幡1-3-3
電話番号:0463-35-2111 
開館時間:9:30〜17:00 ※入館は16:30まで 
休館日:月 
料金:一般800円 / 大学生・高校生500円 / ※中学生以下、毎週土曜日の高校生は無料

「水」にまつわる多様な表現。特別展「水のかたち ―《源平合戦図》から千住博の「滝」まで―」(山種美術館)

 古来、名所絵や山水画、物語絵など、様々な主題の中で描かれてきた水。近代以降の日本画においても、海や湖、川や滝を題材とした風景画から、水辺の場面を描く歴史画まで、水が主要なモチーフとなった作品は時代やジャンルを問わず幅広く見いだせる。

展示風景より

 そんな水をテーマとした涼やかな特別展「水のかたち ―《源平合戦図》から千住博の「滝」まで―」が山種美術館で開催されている。海辺を舞台とし江戸時代に描かれた《源平合戦図》から、《名所江戸百景 大はしあたけの夕立》など雨を描いた名作で知られる歌川広重の名所絵、画家の代名詞にもなっている千住博の「滝」シリーズまで、水を印象的に描きだした優品の数々が並んでいる。

 また特集展示「日本画に描かれた源平の世界」として、昨今、大河ドラマやアニメで話題となっている「源平の物語」に注目。そのなかでは、宇治川や瀬戸内海など水辺を舞台とした場面が描かれた作品もあわせて展示されている。カフェもあわせて堪能してみてはいかがだろうか。

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会期:2022年7月9日〜9月25日
会場:山種美術館
住所:東京都渋谷区広尾3-12-36
電話番号:050-5541-8600
開館時間:10:00〜17:00 ※入館は閉館の30分前まで
休館日:月(7月18日、9月19日は開館)、7月19日、9月20日
料金:一般 1300円 / 中学生以下無料(付添者の同伴が必要) ※夏の学割:大学生・高校生500円(本展に限り、特別に入館料が通常1000円のところ半額)

フランス近代絵画の潮流をたどる。「スイス プチ・パレ美術館展 印象派からエコール・ド・パリへ」(SOMPO美術館)

 スイスのジュネーヴにあるプチ・パレ美術館が収蔵する、19世紀後半から20世紀前半までのフランス近代絵画を紹介する展覧会「スイス プチ・パレ美術館展 印象派からエコール・ド・パリへ」がSOMPO美術館で始まった。

展示風景より、左はモーリス・ドニ《ペロス=ギレックの海水浴場》(1924)

 プチ・パレ美術館は、熱心な美術蒐集家でもあった実業家オスカー・ゲーズのコレクションを公開する場として、1968年に開設された。同館はルノワールやユトリロといった有名な作家に加え、あまり知られていなかった画家たちによる優れた絵画も数多く収蔵。創設者の逝去後、現在まで休館しており、その収蔵品展が日本で巡回開催されるのは約30年ぶりのこととなった。

 本展では、印象派や新印象派、ナビ派、フォーヴィスム、キュビスム、エコール・ド・パリなどの様々な絵画運動が生まれ、絵画における実験的な表現方法が探究された、世紀転換期のパリの画家たちが集結。19世紀後半から20世紀前半にかけてのフランス近代絵画の流れを、38名の画家による油彩画65点という充実した内容によって展望することができる展覧会だ。

会期:2022年7月13日~10月10日
会場:SOMPO美術館
住所:東京都新宿区西新宿1-26-1
電話番号:050-5541-8600
開館時間:開館時間10:00~18:00 ※入館は閉館30分前まで
休館日:月(7月18日、9月19日、10月10日は開館)
料金:一般 1600円 / 大学生 1100円 / 小中高生無料

ついに開幕。「ライアン・ガンダー われらの時代のサイン」(東京オペラシティ アートギャラリー)

 2021年に開催を予定しながらも、コロナ禍による延期を余儀なくされていたイギリス人アーティスト、ライアン・ガンダーの大規模個展「ライアン・ガンダー われらの時代のサイン」。ついに東京オペラシティ アートギャラリーで開幕する。

ライアン・ガンダー 2000年来のコラボレーション(予言者) 2018 公益財団法人石川文化振興財団蔵

 ガンダーのこれまでの幅広い制作活動に一貫しているのが、「見る」ということへの考察だ。意外なもの同士を結びつけ、情報を部分的に隠蔽し、そしてユーモアを交えながらつくられる作品は、私たちが普段見過ごしていること、あたりまえと片付けてしまっていること、それすら忘れていることへの注目を促し、様々な問いを抱かせる。

 作家にとって東京での初めての大規模個展となる本展でガンダーが目指すのは、新作を含めて大きな展示室全体をひとつの作品としてつくり上げること。さらにギャラリー上階には、昨年同館で開催された「ライアン・ガンダーが選ぶ収蔵品展」が再展示され、ガンダーが手がけるふたつの展覧会が鑑賞できる機会だ。

会期:2022年7月16日〜9月19日
会場:東京オペラシティ アートギャラリー
住所:東京都新宿区西新宿3-20-2
電話番号:03-5353-0756 
開館時間:11:00〜19:00 
休館日:月(祝日の場合は翌火曜)、8月7日 
料金:一般 1400円 / 大学・高校生 1000円 / 中学生以下 無料

仕事の全体像に迫る。「ジャン・プルーヴェ展 椅子から建築まで」(東京都現代美術館)

 1990年代以降再評価が高まり、国内外で高い人気を誇るフランスの建築家でデザイナーでもあるジャン・プルーヴェ(1901〜1984)。その大規模展覧会「ジャン・プルーヴェ展 椅子から建築まで」が東京都現代美術館で開催される。

ジャン・プルーヴェ 「カフェテリア」チェア No. 300 1950頃
Laurence and Patrick Seguin collection © Galerie Patrick Seguin © ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2022 C3892

 本展は、20世紀の建築家による家具を扱うギャラリー・パトリック・セガンと、アメリカ・カリフォルニア州を拠点に活動するアートディレクターの八木保による共同企画展。主に両者の所蔵作品および、前澤友作、プルーヴェ家の所蔵作品で構成される。

 会場では、《「サントラル」テーブル》(1956)や《ファサード・パネル》(1950頃)、《ライン照明》(1954)などのプルーヴェを象徴する作品とともに、現存するオリジナル家具およそ100点、図面やスケッチなどの資料が展示。そして、自らを「構築家(constructeur)」と位置づけたプルーヴェの建築物へのアプローチにも焦点を当て、移送可能な建築物の展示を通じて、幅広い仕事も紹介される。

会期:2022年7月16日〜10月16日
会場:東京都現代美術館 企画展示室1階、地下2階
住所:東京都江東区三好4-1-1
電話番号:050-5541-8600
開館時間:10:00〜18:00 
休館日:月(7月18日、9月19日、10月10日は開館)、7月19日、9月20日、10月11日
料金:一般 2000円 / 大学生・専門学校生・65 歳以上 1300円 / 中高生 800円 / 小学生以下無料

言葉や物語を起点に。「MOTアニュアル2022 私の正しさは誰かの悲しみあるいは憎しみ」(東京都現代美術館)

 上述のジャン・プルーヴェ展と同時に東京都現代美術館で開催されるのが、グループ展「MOTアニュアル」だ。現代の表現の一側面を切り取り、問いかけや議論の始まりを引き出す本展は今年18回目を迎える。「私の正しさは誰かの悲しみあるいは憎しみ」を副題とし、大久保あり、工藤春香、高川和也、良知暁の4人のアーティストを紹介する。

高川和也 ASK THE SELF 2015

 展覧会は言葉や物語を起点として、時代や社会から忘れられた存在にどのように輪郭を与えることができるのか、私たちの生活を取り巻く複雑に制度化された環境をどのように解像度をあげてとらえることができるのかを、4人のアーティストとともに考える。参加アーティストはそれぞれ、本展のための作品を制作・発表するという。

会期:2022年7月16日〜10月16日
会場:東京都現代美術館
住所:東京都江東区三好4-1-1
電話番号:050-5541-8600
開館時間:10:00〜18:00 
休館日:月(7月18日、9月19日、10月10日は開館)、7月19日、9月20日、10月11日
料金:一般 1300円 / 65歳以上・大学生・専門学校生 900円 / 中高生 500円 / 小学生以下無料

国内外で活躍する作家10名を紹介。「アール・ブリュット2022巡回展 かわるかたち いろいろな素材、さまざまな表現<第一会場>」(東京都渋谷公園通りギャラリー)

 フランスの芸術家ジャン・デュビュッフェによって提唱された「アール・ブリュット」。今日では広く、専門的な美術の教育を受けていない人などによる、独自の発想や表現方法が注目されるアートを表する。

デザイン=10 inc.

 そんなアール・ブリュットを紹介する展覧会「アール・ブリュット2022巡回展 かわるかたち いろいろな素材、さまざまな表現<第一会場>」が、東京都渋谷公園通りギャラリーで開催される。

 本展は「かたち」をキーワードに、国内外で活躍の場を広げる作家10名による様々な表現を紹介。姿や形状、図柄、また、ものごとの様子や状態を表す時にも使われ、多様な意味合いを持つ「かたち」という言葉のように、多様な表現との出会いを通して、創造の根源的な魅力に迫る。

会期:2022年7月16日~9月25日
会場:東京都渋谷公園通りギャラリー
住所:東京都渋谷区神南1-19-8 渋谷区立勤労福祉会館1F
電話番号:03-5422-3151
開館時間:11:00~19:00 
休館日:月(7月18日、9月19日は開館)、7月19日、9月20日
料金:無料

生まれたての体で世界と出会う。「みる誕生 鴻池朋子展」(高松市美術館)

 旅をしながら地形や季節とともに制作を重ね、一貫して芸術の根源的な問い直しを続けているアーティスト・鴻池朋子の展覧会「みる誕生 鴻池朋子展」が高松市美術館で開催される。

鴻池朋子 アライグマの糞 模型 2021 © Tomoko Konoike

 アニメーションから絵画、絵本、彫刻などから手芸、おとぎ話、歌まで、あらゆる身近なメディアを用いている鴻池。今回は、生まれたての体で世界と出会う驚きを「みる誕生」と名付けた。観客は眼だけではなく、手で看(み)る、鼻で診(み)る、耳で視(み)る、そして引力や呼吸で観(み)て、美術館という強固な建築と、疎遠になってしまった自然界とに新たな通路を開くことになるという。

 会場では、本展のために新たに制作された牛革ツギハギの《皮トンビ》を初公開。美術館のエントランスホールの《皮トンビ》から始まるひもをみちしるべに、それを伝いながら展覧会全体を周遊でき、展示室に導かれると、新作の《どうぶつの糞》の模型などとともに、人間の痕跡である美術館のコレクションが共存する。

会期:2022年7月16日~9月4日
会場:高松市美術館
住所:香川県高松市紺屋町10-4
電話番号:087-823-1711
開館時間:09:30~17:00(金土〜19:00) ※入館はいずれも閉館30分前まで 
休館日:月(7月18日、8月15日は開館)、7月19日
料金:一般・65歳以上 1000円 / 大学生 500円 / 高校生以下無料

「アリス」の文化現象を網羅。「特別展 アリス ーへんてこりん、へんてこりんな世界ー」(森アーツセンターギャラリー)

 「特別展 アリス ーへんてこりん、へんてこりんな世界ー」が森アーツセンターギャラリーで開催。19世紀から現代にかけて、アート、映画、音楽、ファッション、演劇、写真など様々なジャンルで表現されてきた『不思議の国のアリス』の世界とその広がりが紹介される。

V&Aでの展示の様子
Alice Curiouser and Curiouser, May 2021, Victoria and Albert Museum Installation Image, Cheshire Cat created by Victoria and Albert Museum, Alan Farlie, Tom Piper, Luke Halls Studio © Victoria and Albert Museum, London

 イギリスのヴィクトリア・アンド・アルバート博物館(V&A)で初開催され、世界各地を巡回している本展では、日本のオリジナル展示も加わる。会場では、『不思議の国のアリス』初版と続編に携わったジョン・テニエルの挿絵をはじめ、V&Aと海外所蔵品を中心とする貴重な作品と資料が展示。

 ウォルト・ディズニーのアニメーションセル、ティム・バートン監督による映画『アリス・イン・ワンダーランド』、アリスに影響を受けたサルバドール・ダリや草間彌生らの作品、バレエなどでの舞台衣装、またヴィヴィアン・ウエストウッドらによるファッションなど、約300点が一堂に会す。

会期:2022年7月16日~10月10日
会場:森アーツセンターギャラリー
住所:東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー52F
電話番号:050-5541-8600
開館時間:10:00~20:00(月火水〜18:00、7月18日、9月19日、10月10日〜20:00)※最終入館は閉館30分前まで 
休館日:会期中無休
料金:事前予約制(日時指定券)を導入。詳細は展覧会サイトへ

世界初公開の肖像画も。特別展「モディリアーニ ─愛と創作に捧げた35年─」(大阪中之島美術館)

 大阪中之島美術館開館記念の第2弾として同館で開催中の特別展「モディリアーニ ─愛と創作に捧げた35年─」が、7月18日に閉幕する。

展示風景より、アメデオ・モディリアーニ《髪をほどいた横たわる裸婦》(1917)

 ピカソや藤田嗣治らともに活躍し、エコール・ド・パリの一員として知られるモディリアーニ。本展は、2008年の回顧展以来、日本でモディリアーニの作品を初めてまとめて展示したもの。世界初公開の肖像画を含め、国内外のモディリアーニ作品約40点が集結し、その芸術が成立していく軌跡をたどる。

 会場では、大阪中之島美術館のコレクションを代表する《髪をほどいた横たわる裸婦》のモデルと同一の女性を描いたアントワープ王立美術館所蔵の《座る裸婦》が来日し、大阪で初めての競演を見ることができる。加えて、キスリングやパスキンらパリで活動した外国出身作家や、新しい流れを生み出したピカソやセヴェリーニなどモディリアーニと親交を深めた芸術家の作品もあわせて展示されており、大阪・中之島で再現した「エコール・ド・パリ」の空間を堪能してほしい。

会期:2022年4月9日〜7月18日
会場:大阪中之島美術館
住所:大阪府大阪市北区中之島4-3-1
開館時間:10:00~17:00 ※入場は16:30まで 
料金:一般 1800円 / 高校・大学生 1500円 / 小・中学生 500円